独断的JAZZ批評 737.

FRANK HARRISON
何千、何万と歌い継がれてきたスタンダードを、手を替え品を替えてアプローチしたくなる気持ちも分からないではないが・・・
"SIDEWAYS"
FRANK HARRISON(p), DAVIDE PETROCCA(b), STEPHEN KEOGH(ds)
2011年7月 スタジオ録音 (LINUS RECORDS : LDCD01)


初めて聴くプレイヤー、FRANK HARRISONはイギリスで活躍するピアニストだという。
ドラムスのSTEPHEN KEOGHはアイルランドの重鎮とも言われているドラマーで、最近では、EDWARD SIMONの"DANNY BOY"(JAZZ批評 678.)に参加している。そのアルバムは自主制作盤だというが内容が素晴らしかった。肩の力の抜けた自然体の演奏で「何気に、そして、普通に素晴らしいアルバム」ということで2011年のベスト10枚(JAZZ批評 733.)に僕は選定した。
翻って、このアルバムであるが、ベースにはギターリスト兼作曲家でもあるDAVIDE PETROCCAが参加している。

@"AUTUMN LEAVES" こういう誰もが知っているスタンダードは難しい。他人と同じようには弾きたくない、個性を出したい、ということで変に力が入ってしまうものだ。この演奏も然り。テーマも素直には弾きたくないという思いが、逆に、躍動感を削いでしまっている。特に、サビの8小節はいただけない。アドリブに入ると煌びやかなピアノ・プレイが聴ける。ベース・ソロではこの後に演奏されているFのフレーズなんかが出てきてオチャラケている。どちらかと言うと、4ビートで遮二無二突き進んで欲しいところだ。
A"ONE" 
HARRISONのオリジナル。
B"DINDI" 
JOBINの曲。ここはHARRISONが煌びやかで熱っぽい演奏を披露している。その後、ベース・ソロが大きくフィーチャされる。このPETROCCAは結構テクニシャンで饒舌なプレイを披露しているが、ベースをギターのように弾く必要性も感じないのだが・・・。もっとも、この人、ギターリストでもあるそうだからついつい手癖が出てしまうのかも。ドラムスとの小節交換を経てテーマに戻る。
C"FLOWING AT REST" 
D"HOW LONG HAS THIS BEEN GOING ON" 
GERSHWINの書いた美しい曲。やはり、曲の良さが光るね。STEPHENのブラシ・ワークも過度に抑えめでないのが良い。なかなか良いと思う。実力があるんだから変にアレンジに凝るよりもこういう素直な演奏の方がずっと良いね。
E"SONG FOR ROO" 
F"YOU AND THE NIGHT AND THE MUSIC" 
長めのイントロからテーマに入る。が、アレンジに凝り過ぎ。原曲の良さが消えてしまっている。他人の演奏とは違えたいというプロの陥る罠だね。アドリブに入るとアップ・テンポの4ビートを刻む。
G"THE RIDDLE SONG" 
イギリスのトラディショナルをしっとりと。

多分、一番ナチュラルに弾いたと思われるDとGが断然良い。人とは違うアレンジに凝ったスタンダード・ナンバーの@やFは陥穽に嵌ってしまった印象を拭えない。何千、何万と歌い継がれてきたスタンダードを、手を替え品を替えてアプローチしたくなる気持ちも分からないではないが、実力のある人にはこういうのは邪道だ。正々堂々、正面から立ち向かうべきでしょう。まあ、結果として演奏が良くないのだから辛口評価もやむを得まい。   (2012.01.18)

試聴サイト : http://www.frankharrison.net/discography/sideways



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