独断的JAZZ批評 712.

JOAN DIAZ
単純明快にストレートな演奏ではない
予測不能な、あるいは、期待を裏切る演奏なのだ
"MOSTREB U"
JOAN DIAZ(p), DAVID MENGUAL(b), DAVID GOMEZ(ds)
2001年2月 スタジオ録音 (DISCMEDI BLAU : DM 4931-02)

このJOAN DIAZというピアニストはスペインを拠点に活動しているらしい。何しろ、このアルバムはこの数年在庫切れで、今回250枚の限定再プレスだという。こういう謳い文句を聞くとついつい食指が伸びてしまうというのが人情で、売る側もそういう心理を上手に突いて営業活動をしてくる。なるべく、そういう作戦には乗らないようにしてきているのだが、今回はストックもなくなってきたので注文してみた。
スペインのピアニストというと、僕の中ではMARTI VENTURAの"PAS DEL TEMPS"(JAZZ批評 287.)が真っ先に浮かんでくるが、IGNASI TERRAZAという盲目のピアニストの"IT'S COMING"(JAZZ批評 192.)も良いアルバムだった。

@"FRED ON THE BRIDGE" 非常にリリカルなバラード。
A"ALONG CAME BENNY" 
今度は軽快にブラシがリズムを刻んでいく。続いて、少し重たいベースがソロを執る。こういう演奏がこのDIAZの本領なのかもしれない。アドリブで少しアウト気味の加減が面白いかも。
B"NO T'ARRUGUIS" 
T. MONKを彷彿とさせるテーマ。DIAZのピアノはヨーロッパのピアニストとしては音数少なめで、音使いに面白さがある。軽快なシンバリングに乗って4ビートでゴシゴシ進む。
C"QUE ME PASA, DOCTOR?" 
リリカルなタッチとひょうきんでユーモアを交えたピアノはユニーク。先に紹介したMARTI VENTURAと似たような部分を併せ持つ。ピアノの音色のクリアさに比べてベースの音色がくぐもっているのが残念。
D"EL TRIANGLE" 
このピアニスト、ワーッと素直には突っ走らない。行きそうで行かないのだ。そんな部分が面白いといえば面白いのだが、一歩間違うと隔靴掻痒な気分になってしまう。そうこうしているうちに4ビートを刻みだし、見事に裏切ってくれるのだ。
E"MOSTREB U" 
ただ美しくて綺麗という演奏ではない。一癖あって予測不能な展開がDIAZの真骨頂かもしれない。
F"MUMA" 
頭からミディアム・テンポの4ビートを刻む。GOMEZのシンバリングがいいね。DIAZのピアノは醒めた感じでスタートするが徐々に熱さを増してくる。ドラムスとの4小節交換の後にテーマに戻る。
G"TAMARIU" 
H"CHANGE"
 これは余分だった。

9曲、全部DIAZの書いた曲。このオリジナルだけでこのピアニストの評価をするのは難しい。2〜3曲のスタンダードでも入っていれば分かり易かった。言えるのは、単純明快にストレートな演奏ではない。予測不能な、あるいは、期待を裏切る演奏なのだ。それがこのピアニストの個性なのかも知れない。
そういう意味でも、次回作には何曲かのスタンダード・ナンバーが配置されているアルバムを聴いてみたいと思った。どんな解釈を施してくれるのか楽しみである。   (2011.08.24)


試聴サイト : http://diskunion.net/latin/ct/detail/XATW-00047127




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