独断的JAZZ批評 697.

JAZZ雑感 19.    「二つのライヴ」
久しぶりにライヴ・レポートを書いてみようと思う。ここ数年、ライヴ・レポートを書くのはやめていた。ライヴ・レポートを書こうとすると演奏曲目とか、どんなスタイルで演奏しただとか、だれそれのソロはどうだったとか、そういうことに気が取られて肝心要の自分自身が音楽を楽しむということが出来なくなってしまうからだ。
だから、今回は細かいことを抜きにして「読後感」ならぬ「聴後感」で書いてみたいと思う。


"KEITH JARRETT SOLO 2011"
KEITH JARRETT(p)
2011年5月28日 渋谷文化村 オーチャッド・ホール・ライヴ


当日はあいにくの雨。少し早目に家を出て、途中で食事をとってから会場に行くことにした。昔懐かしい道玄坂の「福田屋」で蕎麦でも食べてと思ったが、当日は午後3時で終了とあった。仕方なしに文化村前の「匠」で蕎麦を食べることにした。ここの場合は「蕎麦屋」というよりは「飲み屋」といったほうが正しいだろう。ハーフアンドハーフのビールと一ノ蔵を飲んだ。もう一杯、一ノ蔵とも思ったが、ほろ酔い気分では寝てしまうかもしれないと思い、我慢した。
オーチャッド・ホールはSS席にもかかわらず、2階席の右の袖。ウーン、これで席料12,000円はぼったくりに近いなあと思いつつ席についた。
しかし、会場は満席。2,000人は超えていただろう。未だに、これだけの人を集められるというのも凄いことだ。げすな計算をすると、平均単価10,000円として2,000人で2,000万円の売り上げかあ!
KEITHの演奏が始まった。おおっと!フリーというか、アブストラクトというか・・・。そして、ゴスペル調の演奏。ワン・コードで延々とアドリブを展開する。時に、強く足を踏み鳴らし、時に大声を上げ、時に眠るように静かに弾いた。どこかで聞いたような・・・。
後半部も似たようなスタイルで、アンコールに。アンコールは少々もったいぶった雰囲気で、スタンダードを3曲演奏した。
そういえば、この日の演奏は、KEITH自身のソロ・アルバム"THE CARNEGIE HALL CONCERT"(JAZZ批評 370.)の演奏に近かったかもしれない。
12,000円の元は取ったかというとそうでもない。前述のアルバムを聴いていれば、似たようなものだった。KEITHなりの持ち味というものはあったのだが・・・。同じソロでも、例えば、BRAD MEHLDAUの"LIVE IN MARCIAC"(JAZZ批評 684.)における高揚感や緊迫感、躍動感のようなものが不足していたと感じた。
正直なところ、ひとつの時代が終わりに近づいているなあと感じたものだ。   (2011.05.29)


"FLIGHT FROM DENMARK 2011"
MAGNUS HJORTH(p), PETTER ELDH(b), 池長 一美(ds)
2011年6月1日 池袋 APPLE JUMP ライヴ


2年前に出来たという池袋の"APPLE JUMP"に初めて行ってきた。30人も入れば満杯という小さなライヴ・ハウスだ。ミュージック・チャージは3,500円。コンサート・ホールの席料に比べると、安いというか、良心的というか。これは有難い。敷居がグーンと低くなった感じ。ならばというわけではないが、家から近いということもあって、家族総出の5人で聴きに行ってきた。
手を伸ばせばMAGNUSと握手できるような場所で聴くことが出来た。これだよ、これ!ライヴはこうでなくちゃあ。オペラ・グラスがないと誰か判別できないようなコンサート・ホールとはわけが違う。
一昨年は御茶ノ水"NARU"、昨年が新宿"PIT INN"で聴いた。このツアーも今年で3回目を迎える。
先ず最初の演奏が"EVERYTHING I LOVE"。彼らの十八番だ。いきなりPETTERが顔を赤くしてテンションの高いプレイをしたので度肝を抜かれた。このベーシスト、本当に凄いわ!
その後、セカンド・アルバム"PLASTIC MOON"(JAZZ批評 662.)から何曲か演奏された。変拍子の"SHINY STOCKINGS"もやっていた。これもノリノリで変拍子だとは分からないくらい。デンマークのオリジナル・トリオのアルバム"OLD NEW BORROWED BLUE"(JAZZ批評 555.)からMAGNUSの書いた名曲"BALLROOM STEPS"も演奏され、最後のアンコールは"IN A SENTIMENTAL MOOD"で締めた。
スウェーデン人二人と日本人一人のトリオは2年の歳月を経て、より強靭に、より滑らかに意思を伝え合うようになった。ドラムスの池長が実に伸び伸びと主張し始め、グループに溶け込んできたなあという感じ。こうでなくてはいけない。これぞ、トリオ。
同じステージの中でも、演奏が進むに従ってどんどん三人の息が合ってきた。今回のツアーの今日が初日であることを考えると、これから一日、一日、更に熟成していくことだろう。
いつものことながらMAGNUSのピアノは歌心溢れるもので、未だ20歳代とは思えない。それと結婚したばかり(可愛い奥さんが同伴だった)というベースのPETTER ELDHの充実振りも特筆に価する。今回も、今まで以上の素晴らしいパフォーマンスを披露してくれた。

ジャズはライヴ・ハウスで聴くに限る。皆さん、日本全国のジャズ・ハウスに足を運びましょう。   (2011.06.02)



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