独断的JAZZ批評 682.

RYUICHI YOSHIDA + MIKIO ISHIDA
"SINCERELY"は秀逸
あえて、アブストラクトの手法を持ち込まなくても十分に二人の良さが認識できる
"霞"
吉田 隆一(bs), 石田 幹雄(p)
2009年 スタジオ録音 (SINCERELY MUSIC : SINM-004)

こういうアルバムは、書き始めたら一気に書き上げないと途中で腰砕けになりそうだ。購入したのは1月の初めで石田幹雄の"TURKISH MAMBO"(JAZZ批評 679.)と一緒に購入した。
僕の想いの中では、ピアノとバリトンサックスという組み合わせはKENNY WERNERとJENS SONDERGAADとのデュオ・アルバム、"A TIME FOR LOVE"(JAZZ批評 509.)のような心温まる演奏を連想していた。もっとも、そのアルバムの中でSONDERGAADがバリトンを演奏したのは1曲目の"BUT BEATIFUL"だけだったが・・・。全編を占める、アルトサックスとクラリネットをも駆使したWERNERとのコミュニケーションが素晴らしかった。僕はこのアルバムを2008年のベスト・アルバムのひとつとしてピック・アップしている。
翻って、このアルバムであるが、バリトン奏者の吉田隆一は初めて聴く。というよりも、石田目当てに購入したアルバムといっていいだろう。御茶ノ水のdiskunion JazzTOKYOの棚に"TURKISH MAMBO"と並んで陳列されていたのでつい手が伸びた。
サックス奏者で批評家の大谷能生氏がアルバムの帯に「まるで砲丸でサーヴされるウィンブルドン決勝戦」と書いているが、これが実に言い得て妙!

@"GOIM" いきなり砲丸がドスンと飛んできた。テーマこそあるが、ほとんどアブストラクトだ。
A"ハリウス U" 
静かなバラードであるが硬質な鉱物のよう。重低音の織り成す競演。
B"高い場所は遠い色が支える" 
ピアノとバリトンで奏でるユニゾンのテーマ。吉田のバリトンは雄叫びのようでもある。近所からクレームが来るのではないかと、ついついボリュームを下げてしまう。
C"カスミノトバリ" 
霞が重く淀んで帳を下ろしたよう。墨絵のようでもある。
D"写し" 
バリバリ、ガツンガツン、ゴリゴリ、オエーオエー・・・!こういう中にあっても石田のピアノはキラリと才能を感じさせる。
E"SINCERELY"
 アルバム中もっとも聴き易いワルツのテーマ。続く石田のソロがいいね。ピアノの音が踊っているもの。こういう演奏を聴いていると、石田ってピアニストは只者ではないね。バリトンが入ってきて、石田のバッキングとともに高揚感を増していく。全編にわたってこういう演奏があれば5つ星は硬いところだ。この曲ばかりが繰り返し聴きたくなる。
F"黒曜石の門" 
ピアノもバリトンも壊れそうだ!
G"ONE OF LATIN"
 最後を飾る絶叫。

超ど級豪腕デュオ・アルバムと言えそうだ。従い、万人向きではない。聴く人を相当選ぶだろう。かく言う僕も、こいつぁちと荷が重い。ハンマーで殴られっぱなしという感じなのだ。そういう中にあって、Eの"SINCERELY"は秀逸。あえて、アブストラクトの手法を持ち込まなくても十分に二人の良さが認識できる。当人たちにとっては、これだけでは物足りないのかもしれないが・・・。    (2011.02.16)

試聴サイト :  http://diskunion.net/jazz/ct/detail/SINM004