独断的JAZZ批評 676.

YARON HERMAN
本アルバムは「どうしても試してみたかったアルバム」という感じがするのだ
"A TIME FOR EVERYTHING"
YARON HERMAN(p), MATT BREWER(b), GERALD CLEAVER(ds)
2007年 スタジオ録音 (VIDEOARTS MUSIC : VACM-1396)


YARON HERMANのアルバムを紹介するのはこれが3枚目に当たる。1枚目が2010年録音のトリオ・アルバム"FOLLOW THE WHITE RABBIT"(JAZZ批評 665.)で、これは2010年のベスト・アルバムの1枚に選んだ。2枚目が2005年録音のソロ・アルバム"VARIATIONS"(JAZZ批評 670.)で、もう少し早く聴いていれば同じく2010年のベスト・アルバムに選定していただろう。
本アルバムはこれら2枚のちょうど中間の時期、2007年に録音されている。メンバーもMATT BREWER(b)とGERALD CLEAVER(ds)で、後の"FOLLOW THE WHITE RABBIT"のCHRIS TORDINI(b)とTOMMY CRANE(ds)とは違っている。

@"ARMY OF ME" BJORKの曲。いきなりシンセサイザーのような音色で始まり、ベースがリズムを刻みだす。途中にもシンセサイザーのような音色が付加されるが本当にこういう細工は必要なのだろうかという疑問が頭をもたげる。。
A"STOMPIN" 
この曲の冒頭も昔風のラジオ放送のピアノ・プレイが挿入されている。と思いきや、突然にベースが4ビートを刻み始めた。
B"LAYLA LAYLA" 
美しいピアノの音色の影で何やら会話らしき声が聞こえる。ここでは軽快なタッチのワルツ演奏が聴ける。
C"INTERLUDE" 
今回も電子音から入るアブストラクトな間奏曲。
D"TOXIC" 
HERMANはYouTubeの映像の中でもピアノの弦を手で押さえた弾き方をよくしているが、これもそのひとつだろう。
E"NESHIMA" 
静かな曲で湖面に広がる波紋の如し。CARSTEN DAHLの"MOON WATER"(JAZZ批評 246.)を僕は思い出した。
F"PALUSZKI" 
G"PRELUDE No.2 IN B FLAT MAJOR, OPUS 35" 
短目の前奏曲。
H"MESSAGE IN A BOTTLE" 
STINGの曲。冒頭にラジオ放送らしき音声が入る。何故にこういう細工が必要だったのか良く分からない。HERMANのピアノにはダイナミズムがある。ちまちましていないところが良い。
I"MMM" 
フリー・テンポのインタープレイが延々と6分続く。
J"MONKEY PARADISE" 
T. MONKの書きそうなテーマをHERMANが書いた。分かりやすい12小節のブルース。
K"IN THE WEE SMALL HOURS OF THE MORNING" 
真骨頂ともいうべき美しい演奏。HERMANの奏でるピアノの美しさには人を感動させる何かがある。
L"EL TORO" 
重低音を多用した迫力満点の演奏。ベース・ソロの音色もすばらしい。生々しいアコースティックな音色だ。
M"HALLELUJAH"
 ピアノ・ソロ。あくまでも美しく、そして、力強い。3分46秒でこの曲が終わると水彩画のようなインタープレイが展開される。これは隠しトラック?

圧倒的な存在感を示したソロ・アルバム"VARIATIONS"や、抜群の躍動感と緊密感で魅了した"FOLLOW THE WHITE RABBIT"に比較すると実験的な色合いを感じる。先の2枚のアルバムはHERMANが「どうしても作りたかったアルバム」という感じがするのだが、本アルバムは「どうしても試してみたかったアルバム」という感じがするのだ。そういう意味でいろいろなアプローチが施されている。たとえば、ラジオ放送らしき音声を挿入したり、電子効果音を挿入したり・・・。HERMANにとって、一里塚的アルバム。
HERMANはこのアルバムの翌年、2008年に"MUSE"というアルバムをリリースしているそうだが、これはレギュラー・トリオに、今、クラシック界で注目を集めているEBENE弦楽四重奏団をゲストとして迎えているアルバムだそうだ。クラッシクとの融合を目指したのだろうか?ちょっと食指が動かない。   (2011.01.25)

試聴サイト : 
http://www.videoartsmusic.com/ap/?mod=m02&act=a02&iid=1276&st=&wd=