CHIHIRO YAMANAKA
3人の力量もさることながら、アンサンブルが素晴らしい
美しさに加え、一体感、緊密感、躍動感が横溢している
"FOREVER BEGINS"
山中 千尋(p), BEN WILLIAMS(b), KENDRICK SCOTT(ds)
2010年5,6月 スタジオ録音 (VERVE : UCCJ-2083)
山中千尋のアルバムを購入するのは、酷評した2006年録音の"LACH DOCH MAL"(JAZZ批評 367.)以来だ。そのアルバム・レビューで僕は「このまま、可愛いだけのアイドル的ジャズ・ピアニストで終わってしまわないことを祈りたい。」と失礼なことを書いた。
山中千尋といえば、僕の中では"WHEN OCTOBER GOES"(JAZZ批評 113.)がベスト・アルバムだ。そのアルバムが録音されたのが2002年だから、かれこれ8年ぶりに待ち焦がれていたアルバムのリリースといえるのかも知れない。
そう!このアルバムは8年ぶりに喝采したいアルバムである。可愛いだけのアイドル的ジャズ・ピアニストの枠に嵌らずに、見事に甦ってその才能の冴えを見せつけてくれたアルバムと言えよう。
メンバーについてチョコッと触れておくと、BEN WILLIAMSは新進気鋭のベーシストで、先ず、音が良いしビートがある。ドラムスには実力派のKENDRICK
SCOTTが参加。強力なサポート陣と山中の一体感、緊密感が素晴らしい。ピアノ・トリオには3者の奏でるアンサンブルが必要不可欠と思っている僕には満足のいくアルバムのリリースである。
@"SO LONG" 山中のオリジナル。ロシア民謡を思わせる哀愁と心地よいスイング感を秘めた佳曲。簡単に誰にでも口ずさめるシンプルさが良い。何も凝りに凝った楽曲ばかりがジャズのテーマではない。「シンプル イズ ベスト」を地でいった演奏に拍手。
A"BLUE PEARL" 今度はB. POWELLの曲で16小節*2の32小節の歌モノ。コロコロ転がるピアノ、ズンズン進むベース、安定感抜群のドラムス。3者の一体感と緊密感が素晴らしい。WILLIAMSの長めのソロとSCOTTとの4小節交換が用意されている。
B"SUMMER WAVE" 「ブルー・ライト・ヨコハマ」の作曲者で知られる筒美京平が書いた曲をラインナップに加えた大胆さが山中らしい。ジャズという枠に縛られない姿は十八番の「八木節」に通ずるものがある。
C"CHEROKEE" アレンジがユニーク。ミディアム・テンポで始まるが、その後、手を変え品を変えのアレンジが施されている。それが決して嫌味にならないのは3人の中で見事に消化されているからだろう。このアルバムの中の白眉。
D"w.w.w" 今度はBENのグルーヴィな定型パターンのベース・ワークで始まる。それでいて、メロディを奏でる山中のピアノは十分に美しい。実に面白いアプローチだ。山中のピアノには沢山の引出しが出来たなあ。成長の跡がうかがえる。
E"GOOD MORNING, HEARTACHE" 美しいバラード。BENとのインタープレイが良いね。微かに聞える山中のつぶやきが愛らしい。
F"SAUDADE E CARINHO" どこかで聴いたことがあるような・・・。と思えば、先に紹介した"WHEN
OCTOBER GOES"の中にある"S.L.S"に雰囲気が似ている。リズミックではあるが、そこはかとない哀愁がブレンドされている。
G"FOREVER BEGINS" ここではKENDRICK SCOTTのドラミングに注目したい。特に、この曲以降、SCOTTのドラミングが躍動して存在感を見せつけてくれる。
H"THE MOON WAS YELLOW" テンション高めで躍動する。
I"AVANCE" ユーモアたっぷりに「イパネマの娘」のワン・フレーズが挿入されたりしている。
このアルバム、3人の力量もさることながら、アンサンブルが素晴らしい。美しさに加え、一体感、緊密感、躍動感が横溢している。僕が聴いた山中のアルバムの中ではベストではないだろうか。
余談だが、山中千尋にはこんなに濃い化粧は似合わない。素材が良いのだからスッピンの方がズット可愛らしいと思うのだが、どうだろう・・・?と、余計なことを考えつつ、これは"WHEN
OCTOBER GOES"(JAZZ批評 113.)を凌ぐアルバムになったということで、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。 (2010.09.28)
試聴サイト : http://www.universal-music.co.jp/jazz/j_jazz/yamanaka/uccj2083.html
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