KAZUKO BABA
女性ピアニストの場合、非力な分だけ、それを補う感じで饒舌になってしまうことがままあるようだ
"THE POWER OF FATE"
KAZUKO BABA(p), 安ヵ川 大樹(b), 小山 太郎(ds)
2010年2月 スタジオ録音 (WN : WNCJ-2209)


馬場和子のアルバム・レビューは2001年9月録音の"ai"(JAZZ批評 112.)以来となるから、9年ぶりのレビューということになる。ニューヨークで1997年からの9年間を勉強と活動に費やした後、2006年に帰国、現在は活動の拠点を日本に移しているらしい。
僕には、先のアルバム"ai"の中にある"ALL THE WAY"のソロ・ピアノが強く印象に残っている。歌心あるピアニストだと唸ったものだ。当時のサポートは井上陽介と小山太郎。今回のアルバムはベースに安ヵ川大樹、ドラムスは同じく小山太郎が参加している。
安ヵ川といえば、最近リリースしたアルバム、"TRIOS"(JAZZ批評 650.)でオムニバス風に5人のピアニストと弾き分けている。今、最もナマで聴いてみたいと思うプレイヤーの一人。

@"SUMMERTIME" 安ヵ川の奏でる定型パターンのベース・ラインに乗ってBABAがテーマを弾く。いとも簡単そうに弾いているが、難しい定型パターンで、にもかかわらず、躍動感がたっぷりだ。
A"LOVER MAN"
 小山のブラシに乗った軽快な演奏。安ヵ川のベース・ソロがよく歌っている。
B"IN A DIFFERENT WAY"
 ここからGまでは、BABAのオリジナルが続く。
C"BEFORE THE STORM" 
この曲も安ヵ川の定型パターンで始まる。嵐を予感させる太く重いベース・ラインだ。と思っていたら、嵐は来ないまま終わってしまった。
D"SNEAKILY" 32小節の歌モノだけど、ひょうきんなテーマが面白い。BABAはなかなかのメロディ・メーカーだ。安ヵ川のベース・ソロがフィーチャーされているが、これが素晴らしい。ドラムスとの4小節交換を挟んでテーマに戻る。
E"I KNEW IT" 
BABA自身がライナーノーツで「"'ROUND MIDNIGHT"と"YOU DON'T KNOW WHAT LOVE IS"を足して割ったような曲」と書いているが、確かに!美しいバラード。
F"THE WAY I AM" 
アドリブに入るとアップ・テンポでBABAは結構饒舌に弾き倒す。
G"RAINDROPS" 
タイトルからいかにもという感じのボサノバ調。シンプルで良い曲だ。BABAのピアノにも切れがあって良いね。こういう演奏が一番フィットしそう。
H"BESAME MUCHO" 
ここからの3曲がソロ・ピアノ。
I"I JUST CAN'T STOP LOVING YOU" 
J"THE POWER OF FATE"
 アルバム・タイトルにもなっている曲でBABAのオリジナル。

BABAのピアノについて個人的な好みで言わせてもらうと(今までも全て個人的な好みで書いているのだが・・・)、もう少し音符の数が少なくなると良いと思う。もうちょっと「間」が欲しいね。それだけ。
女性ピアニストの場合、非力な分だけ、それを補う感じで饒舌になってしまうことがままあるようだ。このアルバムではGの"RAINDROPS"が女性らしい感性と美しさで一番フィットしていると思う。   

昨晩、僕はお茶の水"NARU"でKAZUKO BABA TRIOのCD発売記念・ライヴを聴いてきた。お目当ては安ヵ川のベースだ。素顔を見たら結構若そうに見えた。帰ってきて調べたら、未だ43歳と若い。スキンヘッドでいかついイメージがあったが、むしろ、端正な顔をしていた。このアルバムや自身の"TRIOS"(JAZZ批評 650.)、村上浩の"BALLAD OF LYRICS"(JAZZ批評 622.)を聴いていて、これは絶対、ナマ音を聴いてみなければと思って出かけた。期待に違わず安ヵ川の弾くベースは凄かった。特に、ハイトーンでのプレイが凄い。テクニック抜群で、音程に狂いはないし、そして、よく歌う。日本に限らず、世界でも屈指のベーシストと言えるのではないだろうか。ひとつ心残りなことは、今回のライヴではアルコ奏法を一度も聴けなかったことだ。楽しみは次回に。   (2010.10.05)

試聴サイト : http://www.neowing.co.jp/detailview.html?KEY=WNCJ-2209



独断的JAZZ批評 654.