STEVE KUHN
名前の神通力がどんどん薄れていくことを感じさせるアルバム
"I WILL WAIT FOR YOU"
STEVE KUHN(p), GEORGE MRAZ(b), BILLY DRUMMOND(ds)
2010年2月 スタジオ録音 (VENUS RECORDS : VHCD-1044)

ビーナス・レコードの1500円盤である。前回紹介したのがBILL CHARLAPの"I'M OLD FASHIONED"(JAZZ批評 634.)だった。オールド・ファッション・スタイルのドラムレス・ギター・トリオだったが、これが結構、新鮮で耳にも心地よかった。こういうアルバムを1500円でゲットできたのは望外の幸せと言わねばならないだろう。
今度はSTEVE KUHNである。しかも、面子にはGEORGE MRAZとBILLY DRUMMONDときたもんだ!もう、最初から受けを狙ってきたというのが見え見えである。この辺のあざとさがビーナスらしいといえばビーナスらしいのであるが・・・。録音は今年の2月だ。
KUHNは1938年生まれだから今年は72歳になる。ベースのGEORGE MRAZは1944年生まれ。64歳になるし、DRUMMONDは1959年生まれだから、今年51歳になる。3人の合計年齢は187歳になる。まあ、ジャズに年齢は関係ないけど、これだけのベテランを揃えて、なおかつ、演奏曲目がMICHEL LEGRAND集とあっては、手馴れた演奏になるのは間違いないだろう。
余談だが、最近のLEGRAND集のアルバムとしては嶋津健一の"COMPOSERS T"(JAZZ批評 617.)があるので紹介しておこう。これは良いよ。

@"I WILL WAIT FOR YOU" 最近、演奏されることの多い曲だ。案の定である。こんな曲、目を瞑っていても弾けるよ!というような手馴れた演奏だ。
A"WHAT ARE YOU DOING THE REST OF YOUR LIFE" この曲も、最近、あちこちで耳にする。ベストは何といってもHELGE LIENの同名タイトル(JAZZ批評 228.)のアルバムでしょう。
B"WATCH WHAT HAPPENS" 
C"HOW DO YOU KEEP THE MUSIC PLAYING" バラード演奏。MRAZのベース・ソロが聴ける。流石のMRAZも昔の勢いがなくなってきた。ビートが弱くなった感じ。音程もときに怪しいし・・・。寄る年波には勝てずか?
D"SUMMER ME, WINTER ME" 軽い感じの曲をミディアム・テンポの4ビートで。KUHNのピアノは余裕綽々でいかにも楽しそう。不足はないけどプラス・αも感じない。長めのベース・ソロを経てテーマに戻る。
E"ONCE UPON A SUMMERTIME" 擦れ気味のMRAZのベース音は、聴くものにとって少し悲しい。かつて、泣く子も黙ると思っていた僕にとって悲しい現実だ。先日、聴いた川村竜(JAZZ批評 640.)のベース音と比較すると世代交代の時期に来ているなあと痛感する。
F"BRIAN'S SONG" ポップス感覚。
G"YOU MUST BELIEVE IN SPRING" @とAとこの曲はMICHEL LEGRANDの代表作だろう。多くのミュージシャンが取り上げてきた有名曲だ。KUHNの料理法が注目されるわけだけど、期待したほどではないバラード演奏。
H"THE SUMMER KNOWS" 
I"I WILL WAIT FOR YOU-REPRESE" 

名の通ったプレイヤーを配置して、名作曲家として名高いMICHEL LEGRANDの作品集ともなれば、いわゆる、企画モノだ。ベテラン・プレイヤーが3人集まって、今までに何百、何千回と弾いてきた曲をやるのは朝飯前だろうけど、そこには緊張感や緊迫感が不足している。言ってみれば、「昔の名前で出ています」的なアルバムだ。
昔、泣く子も黙ったSTEVE KUHNとかGEORGE MRAZという名前の神通力がどんどん薄れていくことを感じさせるアルバム。   (2010.08.12)

試聴サイト :  
http://www.venusrecord.com/v2/release/VHCD-1044.html



独断的JAZZ批評 642.