独断的JAZZ批評 636.

KUNI MIKAMI
リスナーの予想を見事に裏切る演奏だといえる
裏切られたリスナーもその小気味よさに脱帽といった風情なのだ
"LIVE !"
三上 クニ(p), 池田 聡(b), 伊藤 宏樹(ds)
2009年12月 ライヴ録音 (OFFICE YOKOTA)

最近はジャズ・ピアニストでも本を出版する才人が多い。その最たるものが、読み物としても面白かった南博(JAZZ批評 619.)の「白鍵と黒鍵の間に」であり、「鍵盤上のU.S.A」である。その後、守屋純子(JAZZ批評 625.)も「なぜ牛丼屋でジャズがかかっているの?」を出版している。
この三上クニの書いた本は「おもしろジャズ語噺」というタイトルの本だ。今まで紹介した3冊のどの本よりも専門性の高い本となっている。三上のHPにある本の紹介文を掲載するのが、三上の素性を知る上でも手っ取り早いと思ったので以下に転載した。
「1974年秋。弱冠19歳でジャズ・ピアノの修行のために憧れのニューヨークにやってきた。いざセッションに臨んでみたら今まで日本で使っていたジャズ語が通じない。言い方がわからない。言われたことがわからない!以来、在米35年。ライオネル・ハンプトン楽団の専属ピアニストを12年間務め、現在もニューヨークでジャズ・ピアニストとして活躍する三上クニが体験した本来のジャズ語の意味や使い方、考え方とは?ニューヨークのジャズ界に身を置く筆者ならではのおもしろ噺が満載です。」ということになる。勿論、ジャズ・プレイヤーに限らず、ジャズが大好きな全ての世代にお勧めの本である。本の紹介はこれまでにして、肝心のCDを以下に紹介しよう。

@"MOANIN'" なんと最初はバラード風のイントロになっている。イン・テンポになって本来のファンキーな演奏となる。三上は全ての曲において、こういったプラス一工夫の味付けを施している。
A"THINGS AIN'T WHAT USED TO BE" 邦題「昔は良かった」 池田のベースがテーマを執る。エリントン楽団時代にはステージの度に演奏していたという十八番のブルース。
B"NIGHT AND DAY" このライヴの中で受け付けたリクエスト曲だという。これぞ即興のジャズ。最後は心地よい4ビートを刻んで終わる。
C"SHUMANN OP.99 SCHERZO" 
D"MISTY" イントロがまるでRAY BRYANTの"ALONE AT MOTREUX"(JAZZ批評 173. 余談だが、改めてこのCDを引っ張り出して聴いてみたが、これはソロ・ピアノの傑作中の傑作だね!)の中にある "AFTER HOURS"のようなブルース・フィーリング満載のグルーヴィな演奏で始まる。これが最後には"MISTY"になっていくとは誰も想像出来まい。
E"BACH CANTATA BWV147" 
F"HYMNE A L'AMOUR" 邦題「愛の賛歌」 途中に一工夫の細工が施されている。
G"IT DON'T MEAN A THING (IF IT AIN'T GOT THAT SWING)" 邦題「スイングしなけりゃ意味がない」 ここでは伊藤のドラミングがフィーチャーされる。
H"LIKE SOMEONE IN LOVE" 最近、紹介した南博の同名タイトルのアルバム(JAZZ批評 619.)と聴き比べるのも面白い。三上は「変化球」、南は「ストレート」といった感じかな。
I"WAVE" おなじみのA.C.JOBINの書いた名曲。幻想的で浮遊感のある演奏となっている。
J"STRAIGHT NO CHASER" 

三上の演奏は、リスナーの予想を見事に裏切る演奏だといえる。"MOANIN'"にしろ、"MISTY"にしろ、"HYMNE A L'AMOUR"にしろ、ある意味、リスナーを楽しませるコツを知っている。裏切られたリスナーもその小気味よさに脱帽といった風情なのだ。これが、アメリカの第1線で長きにわたってピアノを引き続けてきた実績からくる自信なのだろう。
願わくば、録音がもう少しよければと思う。ベースとドラムスがオフ気味で3者のバランスが良いとは言えないのが残念だ。   (2010.07.14)

試聴サイト :  
http://www16.big.jp/~we3trio/cd.html