KENICHI SHIMAZU
パワフルな昂揚感を堪能できて、化学変化をも体現できる数少ないバラード集
"COMPOSERS U"
嶋津 健一(p), 加藤 真一(b), 岡田 圭大(ds)
2009年6月 スタジオ・ライヴ録音 (ROVING SPIRITS : RKCJ-2044)


先日紹介した嶋津健一の"COMPOSERS"シリーズの第2弾。しかしながら、録音日時は全く一緒の2009年6月7日。第1弾(JAZZ批評 617.)がMICHEL LEGRAND集だったのに対し、このアルバムはJOHNNY MANDEL集となっている。といってもMANDELの曲は
@CDGの4曲までで、残りの5曲は全て嶋津のオリジナルだ。

@"THE SHADOW OF YOUR SMILE" 奇を衒わないストレートなバラード演奏。この曲は微妙にして繊細なコード・チェンジが命。ライナー・ノーツの中に嶋津自身の語る言葉がある。「このトリオは、コード・チェンジのあるスタンダードをやって、素材は保守的なんだけどトリオの演奏は前衛的、というのを目指しています」 ここで言う「前衛的」とは「アブストラクト」ではなくて、「革新的」という意味合いであることは言うまでもない。まさに、そのことを具現化した演奏だ。押し寄せる波のように盛り上がって、潮が引いていく。
A"THE MOMENT I FEEL YOU INSIDE MY MIND" 
陽気なと言いたくなるワルツ。思い切りが良くてパワフルな岡田のドラム・ソロが聴ける。続く加藤のベースも歌っている。
B"GRIEF AND RELIEF" 
これもバラードというよりは躍動する4ビート。
C"CLOSE ENOUGH FOR LOVE" 
D"EMILY" きらりと輝く明るいタッチと心地よいスイング感。この曲はBILL EVANSの演奏(JAZZ批評 142.)としても名高いが、最近ではKENNY BARRONの名演(JAZZ批評 576.)がある。
E"YOUNG AND RESTLESS" 
しっとりした美しいテーマだが進むにつれて昂揚感を増していく。岡田のドラミングが熱い。
F"AUTUMN" 
この曲は"SUMMERTIME"とコード・チェンジがほとんど一緒だという。"AFTER SUMMERTIME"ということで"AUTUMN"というネーミングになったそうだ。ここでは加藤のアルコ弾きが効果的だ。嶋津の右手から繰り出されるシングル・トーンがグルーヴィ。そして徐々に盛り上がっていく嶋津のピアノと岡田のドラムスのインタープレイが圧巻だ。まさに「化学変化」だ!こいつぁ唸るね!
G"A TIME FOR LOVE" こういうしっとりした曲でも最後はパワフルな昂揚感をみせて終わる。
H"MAKKUROKE" 
「まっくろけ」 一聴、小学唱歌のようだが、さもありなん。子供たちの感受性にインスパイアされて生まれた曲らしい。

ここで演奏されている9曲はいずれもバラードと呼んでも良い美しいテーマを持っている。が、演奏自体はバラードの範囲を超えダイナミックでパワフル。さらにスリリングな展開のものもある。単に美しいだけのバラード集で終わっていないところに嶋津健一の嶋津健一たる所以がある。
サポート陣との噛み合わせも良い。特に、ダイナミックでパワフルな岡田のドラミングは聴いていて気持ちが良いし、それでも3者のバランスが全然崩れていないのは優れた録音技術の賜物だろう。
"COMPOSERS T"も"U"も甲乙が点け難い。どちらを買っても損はないだろう。"T"には"YOU ! NAME IT"があるし、"U"にはAUTUMN"があるし・・・。あとは、MICHEL LEGRANDをとるかJOHNNY MANDELをとるか?いっそのこと両方揃えれば文句は出ないだろう。
いずれにせよ、パワフルな昂揚感を堪能できて、化学変化をも体現できる数少ないバラード集ということで、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2010.04.27)

試聴サイト : http://www.japanfiles.com/kenichishimazutrio



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独断的JAZZ批評 624.