ROBERT BALZAR
通り過ぎていく一陣の風のように爽やかな印象
"OVERNIGHT"
STANISLAV MACHA(p), ROBERT BALZAR(b), JIRI SLAVICEK(ds)
2005年2月 スタジオ録音 (COLUMBIA : 519880 2)

前掲のアルバムはポーランドのプレイヤー達のアルバムだった。今回のアルバムはポーランドと南北で国境を境にしているチェコのプレイヤー達のアルバムだ。隣同士の国だけあって、雰囲気はとてもよく似ている。いずれもクラシックの薫陶を受けて育ったお国柄だ。
今回のアルバムのリーダーはベーシストのROBERT BALZARだ。チェコのベーシストというとすぐにGEORGE MRAZ(JAZZ批評 550.)やVIT SVEC(JAZZ批評 126.)を思い出す。クラッシクの薫陶を十二分に受けて、正確な運指と音程が持ち味だ。その上、野性味やビート感も持ち合わせているから鬼に金棒だ。BALZARもそういう一人。最近のジャズの世界ではベースはヨーロッパ勢に叶わないという雰囲気すらある。

@"ON GREEN DOLPHIN STREET" グルーヴィなベースのイントロで始まる。ちょっとだけ崩したベース・パターンがいいね。スタンダード・ナンバーも一捻りしただけで味わいがガラッと変わってくる。やはりこのアルバムのハイライトと言えるだろう。
A"LADY BEHIND THE WINDOW" 
これはジャズ風ド演歌と言っていいでしょう。それ以外に言葉が見つからない。そういう「臭さ」を衒いもなく弾いていくピアニストのMACHAは、これはこれでいいんじゃない。続くBAKZARのベースは太くて逞しい。
B"LA TENDRESSE" 
どこかで聴いたことがあるようなイントロも一転してボサノバ調になって軽快なリズムを刻んでいく。
C"ALWAYS" 
瑞々しくて美しくて、多分にリリカルな演奏だ。美メロであるけど、嫌味がない。受けを狙ったと言う雰囲気はなくて、むしろ、自然発生的な心地よさを感じる。
D"MOMENT'S NOTICE" 
JOHN COLTRANEが書いたテーマの後に、ドラムスの力強いソロがフィーチャーされており、一気呵成に3者がドライヴ感を高めていく。ピアノ〜ベースと続いてテーマに戻る。こいつぁ、ドライヴ感があっていいね。
E"NIGHT" 
一転してスロー・ロック風のバラード。こいつも雰囲気があるね。指でも、膝でも、机でも、何かを叩きながら聴いていたい。最後にBALZARのベースが唸らしてくれる!エンディングも決まっている。
F"EAST OF THE SUN (AND WEST OF THE MOON)" 
このアルバムに入っている2曲目のスタンダード・ナンバー。このピアニスト・MACHAのプレイは潔くていいね。この辺が前掲のPIOTR WYLEZOTとの違いだ
G"BEN-IN-JAM (BENJAMIN)" 
イージー・リスニング風の8ビート。ここではBALZARがアルコでテーマを執る。いかにも受け狙い的だが、全然そういう作為を感じさせない。ひとつの音楽としてこなれている感じだ。
H"FOR YOUR SOUND NO.2 (VARIATIONS ON SPANISH THEMES)"
 最後を締めるBALZARのベース・ソロ。

多分、ピアニスト・MACHAのプレイに、受けを狙ったような作為を感じさせないところがナチュラルな美しさを感じさせるのだろう。リーダーであるベースのBALZARを中心にグループとしてもまとまっている。ナチュラルな印象を与えるのも良い。何年か前に一時、話題になったアルバムだが、これは掘り出し物だった。
このアルバム、決してリーダーであるベーシストの独りよがりにはなっていない。この好演を支えたのはピアノのMACHAの存在だろう。このピアニストは要チェックだ。
通り過ぎていく一陣の風のように爽やかな印象を残して行ったアルバムということで、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2009.10.30)

試聴サイト : http://www.myspace.com/robertbalzartrio



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独断的JAZZ批評 590.