独断的JAZZ批評 474.

MARTIN TINGVALL
前作に続いて全ての曲がTINGVALLのオリジナルというのは意欲的である反面、曲の傾向がどうしても偏ってしまうものだ
"NORR"
MARTIN TINGVALL(p), OMAR RODRIGUEZ CALVO(b), JURGEN SPIEGEL(ds)
2007年6月 スタジオ録音 (SKIP RECORDS : SKP 9077-2)

前掲の"SKAGERRAK"に続き今回もTINGVALL TRIOのアルバムからその第2弾を紹介しよう。"SKAGERRAK"ではリリシズムとグルーヴ感が塩梅良く混ざり合って、ユニークな存在感を見せ付けた。このアルバムはその鮮烈なデビュー・アルバムから1年と半年が過ぎている2007年6月の録音だ。メンバーに変わりはない。このグループは3人とも高い技量と良く歌う歌心を兼ね備えている。特にリーダーのMARTIN TINGVALLのピアノはメリハリが利いていて好みのピアニストだ。今回もまた、全ての曲がTINGVALLの手による。

@"UTSIKT" ジャケットの写真のように・・・森の靄から太陽の光が見えてくる・・・そんな感じ。前アルバムの1曲目では後半にかけてハードタッチの高揚感満載の演奏にシフトしていくのであるが、今回は控え目だ。
A"GRRR" 定型パターンのリズムを刻んでいく中でピアノがグルーヴィなフレーズを重ねていく。「もっともっと熱くなれ!」と思った。ドラムスの小気味良いソロに繋がっていく。
B"SNARESTAD FOLKVISA" マイナー調のクラシカルな曲だが、アドリブではロシア民謡のような哀愁を帯びた演奏に変化していく。
C"BARNSLIG" メルヘンチックな軽やかな演奏。こういう曲でもあっても、決して甘さだけに流されない。最後には迫力あるドラム・ソロを経てテーマに戻る。
D"NORR" フリー・テンポのピアノのイントロで始まるが、すぐにスローの定型の3拍子を刻む。
E"MJAU" 明るいクラシック的な楽曲。ベース〜ピアノと繋いでテーマに戻る。

F"BATSREGN" SPIEGELがマレット〜ブラッシュと持ち替えていくバラード。
G"SEKUND" 変拍子。5拍子かな?変拍子をこともなげにかたずけてしまうプロというのは確かに凄いと思うが、どうも生理的にすっきりとしない。
H"TROLLDANS" ガツンと一発なのであるが、3分少々と短いのが残念。
I"MONSTER" この曲もグルーヴ感満載でガツンとくるのだが、3分半強と短めだ。
J"BACHIBAS" この曲はジャケットでは3分34秒とある。終わったと思ってから3分半ほどするとフェード・インでまた演奏が始まる。その演奏が終わるのが11分と04秒。しかも、フェード・アウトしてしまう。何でこういう仕掛けを入れたのか分からないが、あまり意味のあるものとは思えない。まさか、トータル演奏時間が少なかったので調整したわけでもあるまいに。

このアルバムでは3分台の曲が6曲もあるし、4分台が2曲で、総じて短めの演奏が揃ってしまった。従ってトータル演奏時間も48分程度(11曲目のプラス・アルファを除いて)となっている。第1弾が67分ほどであったから20分近く演奏時間が減っている。長ければ良いっていうものではないが、少々食い足りない。
楽曲的にもジャズらしいテーマの曲が少なくなった。前作に続いて全ての曲がTINGVALLのオリジナルというのは意欲的である反面、曲の傾向がどうしても偏ってしまうものだ。数曲にスタンダードなり、ジャズの巨人の名曲を入れても良かった。
今回の2枚のアルバムは傾向としてよく似ている。2枚組みセットのDISK 1とDISK 2のようだ。だから、敢えて両方を所有する必要はないかも知れない。どちらか1枚で十分な気がする。僕の好みでいえば、やはり第1弾の"SKAGERRAK"を推したい。こちらのほうが演奏にけれんみがないしメリハリも利いている。楽曲もバラエティに富んでいる。特に1曲目と2曲目の印象が強烈で、対するこのアルバムには強烈な印象を残すトラックがないのだ。   (2008.03.28)