TRIOTONIC
所謂、4ビート・ジャズではないが躍動感、美しさ、緊密感が横溢している
新しいピアノ・トリオの未来を予感させる
"HOMECOMING"
VOLKHARD IGLSEDER(p), HORST "SANDY" SONNTAGBAUER(b),
BERNHARD WITTGRUBER(ds)
2005年?月 スタジオ録音 (ATS RECORDS : CD-0590)

このアルバムを最初にゲットしようとしたのは去年の11月で、同じオーストリアのグループ、MG3の"2nd move"(JAZZ批評 381.)と一緒に注文を出した。その時の本命はこのTRIOTONICの方であったが、残念ながら待てど暮らせど入荷はしなかった。もう諦めていたところ、最近になってまたあちこちで紹介されるようになったので、即、注文を入れてゲットした。考えてみれば、いいアルバムというのは売れるアルバムでもあるし、時期が来ればまた入荷するのは当然のことだろう。それこそ、商売の基本なのだから。それにしても、このレコード業界というのは納期管理の全く出来ていない業界だ。在庫品切れで納期が1週間、1ヶ月と繰り延ばしになることを当然のことのように思っているのではないかと疑ってしまう。

このTRIOTONICというグループはお国柄というべきか、MG3と雰囲気は良く似ている。ヨーロッパによくある透明度が高くて端正な演奏スタイルである。4ビートを刻むことはほとんどない。そう、E.S.Tにも似ているが、全ての演奏がアコースティックでエフェクターを使用していないところが違う。
全ての曲が彼らのオリジナルでAとCがドラマーのWITTGRUBERの曲。残り全部がピアニスト、IGLSEDERの曲だ。

@"HOMECOMING"
 静謐なイントロから始まり徐々に高揚感を増していくその様が良い。ブラッシュが2ビート〜16ビート刻んでいき、その上をマイナー調のテーマを奏でていく。ピアノとサポート陣にダイナミズムがあって、演奏に動と静、強と弱のメリハリがある。これは良いね。
A
"BUTTERFLY" 激しく燃え上がる高潮感が良い。ベースのアコースティックな調べ、良い音色だ。
B"TOMORROW" 三位一体となった多ビートの展開に、ウーン!濃密な時間だ。
C
"VALENTIN" しっとりとした美しいテーマ。クリアなピアノの音色、快適なドラムスのビート、ふくよかなアコースティック・ベース。バランスもグッド。
D"VAIN" これもテーマが良い。途中から躍動するドラムスとベースをバックにピアノが小気味良く跳ねる。

E"PROLOGUE" ピアノ・ソロ。美しいテーマ。
F"OBSESSION" ベースの定型パターンに乗ってピアノが踊る。トリオとしての躍動感に満ちているので聴いてて楽しい。ドラムスはブラッシュで多ビートを叩き出す。グルーヴィだ。
G"VANISHED DAYS" テーマとは裏腹にアドリブでは切れのあるファンキーな演奏が始まる。ご機嫌な演奏だ。
H"NO WAY OUT FROM ETERNITY" いやあ、参るね。ヘビメタ風の重たい演奏かと思ったら、途中から趣旨替えで唸らせるあたりは最高だ。いやあ、参った。
I"FLOW" ベースのソロで始まる。明るい曲想にボサノバ調。実に爽やか。
J"THE BALLAD OF YOU" しっとりとしたいい曲だなあ。どこにでも転がっていそうな美メロディではあるが、一回聴くとまた聴きたくなる。

全てをオリジナル曲で構成されているが、どの曲も良いテーマだ。先ず、曲が良くて、3人の力量も秀でていてバランスも良いとなれば、これは当然、星は5つでしょう。クリアなサウンドであるがふくよかな優しさもある。曲よってはグルーヴィな演奏もあるし、メリハリがあってなかなか楽しめるグループだ。所謂、4ビート・ジャズではないが躍動感、美しさ、緊密感が横溢している。従来型にとらわれない新しいサウンドが素晴らしい。新しいピアノ・トリオの未来を予感させる。
次回のアルバムはいつになるのだろう。待ち遠しい。 「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2007.07.01)



独断的JAZZ批評 424.