GEORGES PACZYNSKI
「幻の名盤に名盤なし」の典型
"LEVIN' SONG"
JEAN-CHRISTOPHE LEVINSON(p), JEAN-FRANCOIS JENNY-CLARK(b),
GEORGES PACZYNSKI(ds)
1994年5月 スタジオ録音 (ATELIER SAWANO : AS068)

GEORGES PACZYNSKIがリーダーのアルバムは2週間ほど前に最新で2006年録音の"GENERATIONS"(JAZZ批評 435.)を紹介した。このアルバムはそれを遡ること12年前の1994年の録音だ。謳い文句は「全世界で800枚程度しかプレスされていない」ということ。マニアの間で高額で取引されていたという。この3人のトリオとしては2枚目にあたる。
1枚目は"8 YEARS OLD"で1991年の録音。既に、澤野工房から発売されて久しい。2枚目のこのメンバーがJENNY-CLARKの死によって、メンバー変更を余儀なくされ、その結果として"GENERATIONS"のメンバーに落ち着いたようだ。
全曲、ピアノのLEVINSONの書いたオリジナル。

@"DANS L'ESCALIER" 
3者が対等の立場で演奏するスタイル。ここでのLEVINSONはセンシティブな面と力強い面の両面を持ち合わせていてなかなか良いと思う。曲も悪くはないね。時間も短からず長からずの5分と半。このアルバムのベスト。
A"EXERCICE POUR FLORENCE" こういうベース弾きは僕の良しとするベーシストの尺度の中にはない。速く弾くテクニックだけは持っているようだが、ベースの本分を忘れているように思う。「凄いテクニックとは思うけど、良いなあとは思わない」。自己顕示欲の塊のようだ。トリオとしての楽しさが醸成してこない。ちょっと長いと感ずる8分と44秒。
B"MADO" 特に出だしがスリリング。躍動感とスピード感がある。5分と半。
・・・と3曲目までは何とか聴ける。

C"MELCHIOR" JENNY-CLARKのベース・ソロは饒舌を極めるが、その分、無機質な印象を免れない。こけおどし的な演奏で全然面白くない。むやみに速弾きすれば良いってもんじゃない。あたかも、EDDIE GOMEZのベースの如き。全編、インタープレイの連続といっても、躍動しなければねえ・・・。1回聴くと飽きる。長広舌の11分半。
D"TRANSIT" 
ピアノのフリー・テンポで始まり、それにベースとドラムスが絡み付いてくる。そういうスタイル。
E"ALMAYER" 
ここまでベースの速弾きを聴かされると気が滅入ってくるね。延々と14分半。

今回のアルバムは"GENERATIONS"とは趣を異にする。目指すのは3人が均等に主張するスタイルでインタープレイ重視の演奏だと思われる。が、あたかも、ベースのJENNY-CLARKのリーダーアルバムのようでもある。3曲目まではまあ何とか聴ける。が4曲目以降は繰り返して聴くのが苦痛になる。全体を通して、テクニック重視の無機質な印象が強い。何よりも、理屈っぽくて心底躍動しないのが不満だ。聴いた後にしっとり感やうきうきするような満足感が得られない。

このアルバムは世界でのプレス、800枚のままで良かったのではないか。希少価値を売り物にするほどのアルバムでもない。こういうアルバムを希少価値で売る業界のあざとさが見え透いて快くない。「幻の名盤に名盤なし」の典型ともいえるアルバム。
尤も、騙されるほうも騙されるほうだが・・・。   (2007.09.26)



独断的JAZZ批評 438.