GEORGES PACZYNSKI
最初の数小節を聴いてハッとするね
"8 YEARS OLD"
JEAN-CHRISTOPHE LEVINSON(p), JEAN-FRANCOIS JENNY-CLARK(b), GEORGES PACZYNSKI(ds)
1991年10月 ライヴ録音 (ATELIER SAWANO : 005)

GEORGES PACZYNSKI率いるトリオの3枚目。これら3枚はほぼ時を同じくして注文を出したのであるが、それぞれの納期がバラバラで結果的に新しい順から紹介していくことになった。
このアルバムは一番古い1991年の録音で、澤野工房から発売になって久しい。LEVINSONとJENNY-CLARKが参加している最初のアルバムにあたる。1994年のアルバム"LEVIN' SONG"(JAZZ批評 438.)では饒舌で無意味な速弾きを連発するJENNY-CRARKのベースに辟易したし、2006年のアルバム"GENERATIONS"(JAZZ批評 435.)では実験的な色合いが強く、満足出来るところまでは至らなかった。
このアルバムは今までの2枚と違ってライヴ録音である。スタジオ録音にありがちな観念的な演奏や実験的な演奏は影を潜めエキサイティングな演奏が期待できる。実際、3者の一体感や高揚感、さらには躍動感に溢れており、非常にエキサイティングだ。

@"THE DRIVE"
 最初の数小節を聴いてハッとするね。OLIVER NELSONの書いた佳曲。美しいピアノのイントロからベースとブラッシュが絡み付いてくる。その間合いがとても美しい。こういうの聴くと「いいテーマにいいアドリブ」って思うんだよね。心に染みるなあ!ここでのJENNY-CLARKはとてもよく歌っているし、3人のアンサンブルも素晴らしい。先に紹介した2枚のアルバムは「一体、何だったのか!」と思うほど。美しいテーマを甘さに流されず、時にきめを入れてメリハリもある。これは溜飲が下がる思いだ。いつまでも聴いていたい!とても短く感じる9分半。
A"RE: PERSON I KNEW" 
B. EVANSの曲。ここでもJENNY-CLARKは饒舌なベース・ソロを展開している。しかし、ここでの演奏は多少のびりつきがあるもののビート感溢れる演奏で実に熱っぽい。クールとホットが同居している感じ。このベーシストの本当の実力が遺憾なく発揮されているのだろう。8分25秒。

B"QAL" 
これからの3曲がLEVINSONの書いた曲。一転して、アグレッシブな演奏になる。3分過ぎから高揚感が増してくる。PACZYNSKIのブラッシュ・ワークにも注目。個々の個性がぶつかり合いPACZYNSKI TRIOの個性に昇華しているところがいい。10分。
C"AU-DELA" 
このアルバムの中では一番軽快な演奏。12分と半。
D"BALLADE" 
21分以上の長尺だが、途中でだれることはない。じっくりと最後まで腰をすえてピアノ・トリオにおけるインタープレイの面白さを堪能してみよう。とてもスリリング。後半部にPACZYNSKIのスティックによるドラム・ソロが聞ける。

PACZYNSKIがリーダーとなったこれら3枚の中ではダントツに素晴らしいアルバムだと思う。何よりも、ホットである。ライヴという環境でリスナーの声援が後押ししたという面もあるかもしれない。
グループとしての緊密感もあるし、躍動している。こうでなきゃあ、ピアノ・トリオの魅力を存分に発揮しているとはいえないでしょう。
このアルバムを聴いていると"LEVIN' SONG"の初回プレスが800枚しかなかったことが分かるような気がする。800枚しかプレスしなかったことはひとつの見識かもしれない。

一人一人の実力もさることながら、それらがひとつに絡み合い協和音のように音が拡がり増幅しているところが素敵だ。PACZYNSKIのアルバムを購入する予定があるなら、このアルバムを薦めたい。これ1枚で十分。決して、"LEVIN' SONG"を買ってはいけない。無駄な買い物になるから。
同じメンバーでも、その時、その場のシチュエーションで出来上がりがまるで違う。だから、ジャズは面白いとも言えるのだ。2枚は騙されても、この1枚で全ての元を取った感じ。トータルでプラス・マイナス・ゼロに回帰したという気分で「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。



.

独断的JAZZ批評 439.