独断的JAZZ批評 405.

ALEXI TUOMARILA
一筋縄ではいかない難しいリズムを難なくこなしてしまうのは凄いと思うけど、「凄い」ことイコール「感動」ではない
"CONSTELLATION"
ALEXI TUOMARILA(p), MATS EILERTSEN(b), OLAVI LOUHIVUORI(ds)
2005年11月 スタジオ録音 (JAZZAWAY RECORDS : JARCD030)

このアルバム、ALEXI TUOMARILAの3枚目のアルバムだという。そして、これが初めてのピアノ・トリオ。前作のカルテット・アルバム、"02"は、かのBRAD MEHLDAUが絶賛し、ライーナーノーツまで書いたという。そういう謳い文句を聞くと誰しも聴いてみたいと思うだろう。
このALEXI TUOMARILAは1974年生まれだというから、録音時31歳。サイド・メンバーの二人は同じく同世代のフィンランドのプレイヤーのようだ。


@"CONSTELLATION"
 難しいリズムだ。「1、2、3、1、2、3、4、」と数えると、数えられる。結果的には7拍子なのだ。こういう変拍子をいとも簡単にプレイしてしまうプロっていうのは本当に凄いと思う。が、「凄い」と思うことイコール「感動」ではないから、念のため。
重くて太いベース・ソロを挟んでテーマに戻る。
躍動感もあるし緊迫感もある。MEHLDAUが絶賛しただけあって、只者ではないね。ピアノの一音一音がクリアだ。最後のクライマックスに向かって怒涛のごとく押し寄せる。
A"LAW YEARS"
 ORNETTE COLEMAN書いた曲。さもありなん!フリーというか、アヴァンギャルドというかアブストラクトというか・・・。
B"SCENT"
 
C"THE SIX KEYS OF EUDOXUS" TUOMARILAのオリジナル。多ビートの変拍子。更に難しいリズムで、一体どうなってんの?!が、しかし、分厚い演奏だ。ジャズを聴くときに、ついつい拍子をとる癖がついているのだが、この演奏では拍子をとるのはやめた方がよさそうだ。心を無にして流れ出る音楽に耳を傾けよう。

D"WHAT IS THIS THING CALLED LOVE"
 COLE PORTERの書いたスタンダード・ナンバー。こういう曲をどういう風に料理するのだろうかと興味深かった。3者のスローなインタープレイに終始。
E"RED"
TUOMARILAのオリジナル2曲目。前々回のDANNY GRISSETTもそうだったけど、アドリブに若かりし頃のCHICK COREAの影が見えるんだよね。
F"INTORNETTE"
 ベーシストのMATS EILERTSENの書いた曲で、テーマの後に長目のベース・ソロが用意されている。このベーシストは太くて力強いベース音を持っていてなかなかいいね。前掲のYUGI GOLOUBEVの薄っぺらな音色とは大違いで、これは良かった。ベースはこうでなくちゃあ。途中から倍テンの急速調になるが、ここにもC. COREAの影が現れたりして・・・。
G"MY DARK HOURS"
 TUOMARILAのオリジナル、3曲目。これもスローのインター・プレイ。

僕には、このアルバムの演奏には変拍子の印象しか残らない。一筋縄ではいかない難しいリズムを難なくこなしてしまうのは凄いと思うけど、「凄い」ことイコール「感動」ではないことを承知いただきたい。まだまだ若いし、テクニック優先で行くのもある程度仕方がないことと思う。
でも、いつまでもこのスタイルでは駄目でしょう。もっと、情感や美しさ、そして、緊密感を大事にしないと・・・。若さゆえ許される演奏はそう長くは続かないと思う。こういう演奏は1回や2回は感動を持って受け入れられるかも知れないが、いつまでも続く保証はない。リスナーの「飽き」というのはプレイヤーのそれよりもずっと速いことを心して知るべし。

過去4回にわたって若手ピアニストのアルバム・レビューをやってきた感想を率直に言わせてもらえば、「確かに、皆若い」 若い故の素晴らしさもあるが、まだまだ、「本当に若い」と言わざるを得ない部分が相当ある。端的に言うと、「心よりも頭」という印象だ。体内から湧き出るようなエモーションを「体」でなくて、「頭」で処理しようとする感じ。真っ先に「頭」が優先してしまうという感じなのだ。
ジャズは「血沸き肉踊る」音楽であって欲しいと思うのは長年、ジャズを聴いてきたリスナーの切なる願いなのだ。

スペイン、アメリカ、イタリア、そして、フィンランドと回った若手ピアノニストのアルバム・レビューであったが、5つ星を献上したスペイン、INAKI SANDOVALの"SAUSOLITO"(JAZZ批評 401.)が出色の出来栄えであった。ここには「美しさ、躍動感、緊密感」が横溢していた。   (2007.04.01)