MICHELE DI TORO
ピアノもドラムスも力量のあるプレイヤーだとは思うが、3人の足し算でプラス・アルファの良さが出てこない
"IL PASSO DEL GATTO"
MICHELE DI TORO(p), YURI GOLOUBEV(b), MARCO ZANOLI(ds), PIERGIORGIO MIOTTO(tp:
I)
2005年10月 スタジオ録音 (ABEAT : AB JZ045)
このMICHELE DI TOROというピアニストは1974年のイタリア生まれというから、録音時、31歳だった。過去にマーシャル・ソラール賞やフリードリッヒ・グルダ賞を受賞した実績があるらしい。若手テクニシャンとしての評価も高いようだ。ベースのYURI GOLOUBEVは1972年ロシア生まれだという。ドラムスのMARCO ZANOLIは1971年イタリア生まれで、10代の頃から天才ドラマーとして名声を博したらしい。3人とも1970年代生まれで現在、30代半ばというところか。 まあ、ジャズの世界では40〜50歳も洟垂れ小僧の世界だから、若手の分類に入れてもちっとも可笑しくないだろう。
DのE. PIERANUNZIとFのM. ZANOLIの曲以外は全て、MICHELE DI TOROとベーシスト、GOLOUBEVの書いた曲。
@"CHORALE L" ジャズらしからぬテーマの1分半。短くて良かった。
A"L'ISTANTE PERDUTO" テクニックのあるベーシストだとは思うが、音色がもうひとつ。ブリッジをもう少し高くして、硬く引き締まったアコースティックなベース音になれば、聴けないこともない。
B"ULTIMO GIORNO IN VIA PALAZZI" ピアノとベースの内省的なインタープレイ。ピアノの音色は透明度のあるクリアな音色だ。対してベースも良く歌っているが音色がもうひとつ。もったいない。
C"REYNOLD'S LAW" ジャズ・チューンというよりは、ずーっと、クラシック的。率直に言わせてもらえば、曲としての面白みに欠ける。全く艶っぽさがない!この曲を含め、@、G、IでベースのGOLOUBEVが曲を提供しているが、そのがどれも面白くない。
D"THE NIGHT GONE BY" イタリアの大先輩、E. PIERANUNZIの曲。ベースの長めのソロが用意されている。もっと、シンプルに躍動できるベーシストの方がこのトリオに相応しいと僕は思う。このあたりまでくるとこのベースが鼻についてくる。このグループ、もっと素直にイン・テンポに入ればいいと思うのだがそうはならない。気分的には「隔靴掻痒」だ。世間では、こういうのを頭でっかちというのだ。
E"ODD NOTES SUITE" ドラムスのソロが延々と2分ほど続いて、ベースにタッチ。冗漫なベース・ソロが更に2分以上続いて、ピアノの登場となる。ピアノが出てきて、やっと躍動感のあるリズムを刻み出す。確かに、このピアニストは結構、イケル。12分40秒の長尺ものなので、心して掛かる必要あり。
F"IL PASSO DEL GATTO" 5拍子。やはり、タイトルに使うだけの演奏で、このアルバムの一押しだろう。
G"RETURNING" こういうテーマでは高揚感は醸成されまい。DI TOROはこのアルバムの選曲で大いに損をしていると思う。楽しくも面白くもないテーマだ。
H"REMOTE WHISPER" いっそのこと全ての曲をDI TORO自身のオリジナルで固めたほうが良かったかも。これも内省的な曲だが、GOLOUBEVの曲よりはましだ。このアルバムはこのベーシストを入れたのが失敗の元だと僕は思うね。
I"INNER SIDES" この曲のみトランペットのミュート演奏が入る。この曲も内省的な曲で、ミュートのトランペットがそれを冗長する。
いくらコンペティションで賞を取ったからといって、全てのアルバムで良い演奏が出来るわけでは勿論ないが、最近のジャズ・コンペティションというのは一体、どういう基準で評価するのであろうか?まさかこのトリオで演奏したわけではあるまい。このアルバムはメンバーに恵まれなかったのだと思いたい。尤も、そのメンバーを選んだのはDI
TORO自身かもしれないが。
期待外れの1枚と言わざるを得ない。兎に角、スカッとしない。躍動感が湧いてこないのだ。聴いているうちに憂鬱になってくる。ピアノもドラムスも力量のあるプレイヤーだとは思うが、3人の足し算でプラス・アルファの良さが出てこない。最後は勝手に演っていたらという気になってくる。
まあ、頭でっかちというか、てんでんバラバラというか・・・。3人の演奏から生まれる一体感や高揚感みたいなものがまるでない。とりあえず、今回と違うベーシストが演っているなら、次のアルバムをもう1回騙されても買ってみようかという気にはなるが・・・。
さて、若手ピアニスト・紹介シリーズは次回のフィンランドからのトリオで一旦、締めようと思う。 (2007.03.29)