独断的JAZZ批評 329.

MATHIAS ALGOTSSON
ナチュラルさと爽やかさに乾杯!
"YOUNG AND FOOLISH"
MATHIAS ALGOTSSON(p), MARTIN HOPER(b), CALLE RASMUSSON(ds),
SEBASTIAN VOEGLER(ds:#8 & #11)
2006年1月 スタジオ録音 (SAVVY SOL SV-0001)

アルバムの宣伝文句には「スウェーデンのホープ、待望のデビュー!」とある
曲目には聴き慣れたスタンダード・ナンバーがズラリ
最初から日本市場をターゲットにしたものなのだろうか?
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このアルバムを最初に聴いた時に想起したのはJAN LUNDGRENの"LES PARAPLUIES DE CHERBOURG"であった。そして、見事なまでに共通点を見出すことが出来た。それは、3人のプレイヤーにとって、ずらりと並んだスタンダード・ナンバーはあくまでも料理の素材ということ。そして、3人の料理人が腕を振るって一級の料理に仕立て上げたということだ。
ライナーノーツによれば、最初から日本市場を意識して制作されたアルバムのようだ。スタンダード・ナンバーが沢山あろうとも、要は中身。中身が良ければ文句のつけようがない。
3人のプレイも意思疎通が淀みなく行われているようで、安心して聴いていられるし、何よりも楽しい。
加えて、ALGOTSSONのオリジナルも良い曲が揃った。曲想のバランスも良い。
@EIJがALGOTSSONのオリジナル。

@"KICKOFF" ちょっと変則的な曲ではあるがブルースのようだ。途中、テンポ・ダウンしてミディアム・テンポになっているが、このテンポがこの曲の本来のテンポなのだろう。ブルース・フィーリング豊かな演奏で面白い。
A"STELLA BY STARLIGHT" 
ミディアム・テンポのスウィンギーな演奏。
B"MY ROMANCE" サクサクとブラッシュを刻む中、太いベースのソロでイントロが始まる。ピアノが入ってきて、さて何が始まるのやら?と思っていると、やおら、聴きなれたフレーズが出てくる。良いねえ!凄く!!お洒落。
C"AUTUMN LEAVES" 最近は演奏されることがめっきり多くなった。当「独断的JAZZ批評」の最近の10枚の中にこの演奏を含めて4枚のCDで演奏されている。打率4割というのは凄い数値だ。散々に聞き古された曲だけど、充分にオリジナリティがあるし、刺激的だ。

D"YOUNG AND FOOLISH" 良い曲だなあ!和音の美しさを堪能頂きたい。かつて紹介したアルバムの中ではBRAD MEHLDAU"THE ART OF THE TRIO, VOL . 2"(JAZZ批評 129.)の中にも収録されているので機会があれば聴いてみて欲しい。これもなかなかの演奏だ。
E"PER SPELEMAN" 
F"HERE'S THAT RAINY DAY" 
力強いベースのソロもなかなかいいし、3人のプレイヤーの一体感、緊密感も申し分ない。

G"I WILL WAIT FOR YOU" 邦題「シェルブールの雨傘」。この曲の名演がJAN LUNDGREN "LES PARAPLUIES DE CHERBOURG"(JAZZ批評 204.にもある。是非、比較してみて欲しい。このアルバムの中には"LES PARAPLUIES ・・・"で演奏されたのと同じ曲を3曲取り上げており、偶然とは言え、それぞれの持ち味が生きていて比較するのが面白い。CとこのGと、次のHがその3曲。共通して言えるのは、素材を自分達なりの解釈で見事なジャズに料理したことだろう。
H
"LOVE IS A MANY SPLENDORED THING" 邦題「慕情」。甘さだけに流されずに良く歌うピアノとベースが一級の作品に仕立て上げた。
I"ALLHELGONABLUES" タイトルに"BLUES"の文言がついているが、12小節ではなくて16小節のミディアム・テンポのブルース・フィーリング溢れる佳曲。やはり1〜2曲、こういう曲が入っているとアルバムがグッと締まる。ドラムスとの8小節交換→4小節交換を経てテーマに戻る。
J"FALLING LEAVES" これもALGOTSSONの書いたオリジナル。ブルースからしっとり系までメロディ・メーカとしての才もお持ちのようだ。

このアルバム、聞き古されたスタンダード・ナンバーが7曲も入っているが、どの曲も必ずスウィングしていて、ベターッとしていないのが好ましい。
例えば、映画にも社会派や思想的なものからドタバタ活劇の娯楽作品まで沢山あるが、良い作品といのは必ずしもシリアスな作品とは限らない。そういう意味で、このアルバムも大衆的ではあるが肩の凝らない良質でナチュラルさを感じさせるアルバムである。リスナーにおもねったり媚びたりしていないのが良い。EDDIE HIGGINS(JAZZ批評 23.)と決定的に違うのはこの点だろう。
ナチュラルさと爽やかに乾杯して、
「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2006.03.21)