独断的JAZZ批評 328.

福居 良
かつての演奏がバーボンのストレートやオンザロックとするならば、今回の演奏は人肌のぬる燗だ
"IN NEW YORK"
福居 良(p), LISLE A. ATKINSON(b), LEROY WILLIAMS(ds)
1999年2月 スタジオ録音 (SAPPORO JAZZ CREATE)

作"SCENERY"から23年後の1999年に、師と仰ぐBARRY HARRISのサイドメンと共演したスタジオ録音盤
ハード・バッパー、福居の50歳の記念碑的アルバム
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@"HOT HOUSE" 
A"ALL THE THINGS YOU ARE" 
ハードで泥臭いイントロから美しいスタンダード・ナンバーのテーマが忽然と現れる。快い4ビートを刻んでいくが、実にまろやか。そして、優しく、温かくもある。福居の心根が出たような演奏だ。
B"RED CARPET" 
D.ELLINGTONの書いたミディアム・スローのブルース。ブルース・フィーリングたっぷりの福居のピアノが素晴らしい。しかし、ベースのソロが軽い。音もチープだ。
C"BOUNCING WITH BUD" 勿論、B.POWELLの書いた名曲。先ず、曲が福居のピアノに合っている。気持ちよく伸び伸びと演奏している。BARRY HARRISの女房役を長年勤めてきたLEROY WILLIAMSもこの録音時に62歳になっていたという。元々、ピアノを引き立てるドラマーなので、今回も脇役に徹している。

D"EMBRACEABLE YOU" 福居としては毒のない演奏で、そういった意味では「らしくない」。ベースのアルコ弾きが途中に入るが、いかにも自信なさそうで音程も不安定。興が醒める。音程の悪いアルコだけは聴きたくないものだ。
E"JUST ONE OF THOSE THINGS" 
アップ・テンポで4ビートを刻む。
F"MELLOW DREAM" 
このアルバム、唯一の福居のオリジナル。やはり、この曲が一番嵌っている。まさに「十八番」というヤツだね。

僕はこのアルバムを1週間にわたって聴いてきた。最初は何か物足りなさが残った。50歳で老け込むのは早いのではと思った。
しかし、3日目、4日目になると「これもありかなあ」と思い始めた。即ち、福居の優しさや温かさ、プラス、ノスタルジーが音になっているのかなあと。
5日目に以前、5つ星を献上した"SCENERY"(JAZZ批評 288.)を引っ張り出して聴いてみた。昔の日本人トリオの方がスリリングで鋭角的な面白さがあったし、何よりも躍動していた!
今回のサイドメンは師と仰ぐBARRY HARRISのリズム・セクションとの共演となった。福居が望んだメンバーとは言え、かつての演奏をバーボンのストレートやオンザロックとするならば、今回の演奏は人肌のぬる燗だ。
さて、どちらを選ぶかはリスナー次第だ。僕は勿論、"SCENERY"を取る。
このアルバム、優しさや温もりを感じ取りたいリスナーにはお奨めはするが、躍動感やスリルを求めるリスナーにはお奨めしない。

70歳、80歳まで現役を張るジャズの世界では40〜50歳は洟垂れ小僧だ。老け込むのは未だ早い。以前のような溌剌として躍動感溢れる演奏を期待したいと思うのは僕だけではないだろう。福居よりも年が若く、荒削りで新進気鋭のサイドメンを起用して、往年の鋭角的で躍動感溢れる演奏をもう一度聴かせて欲しいと思うのだ!お願い!   (2006.03.16)