ライヴで録音された音楽がCD化され、再び再生される時には聴く側の置かれているシチュエーションや心理状態はおのずと違っているわけであるから必ずしもイコールとは言えない。
"LIVE AT THE VILLAGE VANGUARD −THE ART OF THE TRIO VOL.. 2"
BRAD MEHLDAU(p), LARRY GRENADIER(b), JORGE ROSSY(ds)
1997年ライヴ録音(WARNER BROS. 9362-46848-2)


JAZZ批評 128.に引き続き、今回紹介するのもBRAD MEHLDAU。 "THE ART OF THE TRIO "シリーズのVOL..2はVOL..4と同じVILLAGE VANGUARDでのライヴ盤だ。
VOL..1(JAZZ批評 24.)で「あっ」と言わせたのが1996年。その1年後の録音。
そして、更に1年後の1998年にVOL..3(JAZZ批評 2.)を出し、世間を「ウオー」と言わしめた。このVOL..3は抑制の効いた緊張感の中で湧き上がる高揚感が素晴らしく、何回も繰り返して聴きたくなる1枚。
しかし、その後、VOL..5あたりから様子がおかしくなってくる。冗漫な印象を拭いきれないのだ。更に、近年に至ってはロックやポップスへのアプローチも見受けられ、なんとも寂しい限りだ。また、原点のピアノに戻って欲しいと願うのは僕だけではないだろう。

一般に、ライヴは聴衆の反応がダイレクトにプレイヤーに反映するので乗りすぎると抑制が効かず、得てしてブロー気味になるケースが多い。JAZZはその時をアドリブという即興演奏で切り取る音楽であるならばそれをよしとせねばなるまい。ライヴで録音された音楽がCD化され、再び再生される時には聴く側の置かれているシチュエーションや心理状態はおのずと違っているわけであるから必ずしもイコールとは言えない。
そういう意味で、ライヴにおける1回きりの演奏となれば、聴く側の場の雰囲気や喧騒も音楽の一部となり高揚感を更に高める要素として働く。逆にCDを聴くという平常心でいられる状況下では「ノリ」が「荒さ」となって耳についたりする。ここにライヴをCD化することの難しさがあると思う。

MEHLDAUの場合、誰もが真似をし得ない超絶テクニックを発揮するアップテンポよりも、スローやバラードにその奥深い音楽性を感じることが出来る。どんなプレイヤーにでも言えることだが、最後はその音楽性こそが心を打つ大きなポイントとなるだろう。決してテクニックだけでは満足できない。

@"IT'S ALRIGHT WITH ME" 
A"YOUNG AND FOOLISH" MEHLDAUの真骨頂をとくとお聴きあれ!
B"MONK'S DREAM" MONKの作った32小節の歌もの。テーマに合わせてひょうきんにおどけた演奏が面白い。

C"THE WAY YOU LOOK TONIGHT" やや冗漫な演奏だ。
D"MOON RIVER" 聞き古されたスタンダード・ナンバーに真正面から取り組んで新しい命を与えている。
E"COUNTDOWN" 

いずれの曲も10分以上の長尺ものだが、CDの再生で聴く分にはちと長い。ライヴだから許される長さだと思う。   (2003.04.10)




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BRAD MEHLDAU

独断的JAZZ批評 129.