FRED HERSCH
HERSCHの実力を十二分に発揮したアルバムと言って良いのではないか
ボーナス・トラック2曲は嬉しい誤算だ
"ETC"
FRED HERSCH(p), STEVE LASPINA(b), JEFF HIRSHFIELD(ds)
1988年5月 スタジオ録音 (RED RECORDS RR 123233-2)

以前に紹介したFRED HERSCHの2002年録音のアルバム(JAZZ批評 127.)はVILLAGE VANGUARDのライヴ盤ということで録音状態も決して良いとは言えず、HERSCHの実力を示したアルバムとは言い難かった。
今回のアルバムはそれを14年遡る1988年のスタジオ録音盤だ。このアルバムはHERSCHの実力を十二分に発揮したアルバムと言って良いのではないか。世間で喧伝されるだけのことはあるピアニストだと思った。
このアルバム、CD用にボーナス・トラックが2曲配置されている。しかし、この2曲がなかなか良いのだ。得てして、ボーナス・トラックというのはアナログLPからCDへの時間合わせに使われることが多いのだけど、このボーナス・トラックは嬉しい誤算だ。しかし、この2曲の出所が分からない。このCD、解説書の類がまるでないのだ。あるのはRED RECORDSのCDラインナップのみ。

@"BLACK NILE" W.SHORTERの曲。
A"THE DOLPHIN" 軽いボサノバ。
B"ALL BLUES" 言わずと知れたM.DAVIS作。LASPINAの力強いベース・ワークが聴ける。

C"EVERY TIME WE SAY GOODBYE" 
COLE PORTER作のスタンダード・ナンバーをしっとりと。しかし、COLE PORTERって、ジャズ・チューンのコンポーザーとしては最高だなあ!ジャズの世界にこれほど、名曲を提供している人はいない。JAZZに絶対欠かせないコンポーザーだと、改めて、つくづくと、真剣に思うのだ。
PORTER作の名曲を挙げれば枚挙に暇がない。例えば、"YOU'D BE SO NICE TO COME HOME TO"(JAZZ批評 130.BILL MAYS)、"LOVE FOR SALE"(JAZZ批評 131.JACKY TERRASSON)、"NIGHT AND DAY"(JAZZ批評 267.CARSTEN DAHL)やEの"EASY TO LOVE"などなど。そのアルバムがスタンダード曲集であれば、必ずといっていいほどPORTERの名前を目にすることになるだろう。

D"SIMONE" 
FRANK FOSTER作。テナー奏者でありながら"SHINY STOCKING"などの名曲を残している。
E"EASY TO LOVE" 
先にも触れた、これもCOLE PORTER作。名曲をジックリと味わっていただきたい。HERSCHのピアノは明るく品良く歌っている。

F"UNIT SEVEN" 
CD BONUS TRACK アップ・テンポの軽快でスウィンギーな演奏。ドラムスが4ビートを刻みピアノが軽快にスウィング。
G"SOMETIME AGO" 
CD BONUS TRACK どこかで聞いたことあるような美しいワルツ。捻りの効いたテーマと伸び伸びとスウィングするHERSCHのピアノがいいね。ブラッシュからスティックに持ち替えて、しばらくすると、倍テンになりベース・ソロへの雪崩れ込む。LASPINAのベース・ソロも良く歌っていていい。このアルバムのベスト。

毎日のようにJAZZ CD を聴いて、毎週のようにJAZZ批評をアップするコツというのがあるとするならば、1枚のCDから好きな1曲を、先ず、見つけること。最初の1曲が決まると、あとは意外ととんとん拍子に行くものだ。このアルバムの場合、「先ず1曲」はGの"SOMETIME AGO"にあたる。
逆にこの1曲が決まらないと七転八倒したりすることもあるので、やはり、最初が肝心だ。
FRED HERSCHの実力の片鱗を窺い知ることの出来る1枚。   (2006.01.19)



独断的JAZZ批評 317.