STEVE KUHN
45年ぶりに発掘されたデモ・テープという以外に何の価値も見出せない
"1960"
STEVE KUHN(p), SCOTT LAFARO(b), PETE LA ROCA(ds)
1960年11月 スタジオ録音 (P.J.L MTCJ-3024)

僕がHMVにこのアルバムの注文を出したのが、8月の後半だったからほぼ2ヶ月待ったことになる。KUHNとLAFAROの組み合わせに「初のCD化」という文言に惹かれたものだ。一体、どんな演奏が飛び出してくるのか楽しみだった。
ライナーノーツによれば、このアルバムは1959年にNEW YORKに進出したSTEVE KUHNが、翌60年にLAFAROとLA ROCAを誘ってレコーディングしたデモ・セッションだったらしい。このテープを使って売り込みを図らんとしたが、願いかなわずお蔵入りとなったテープということで、そのテープが45年ぶりに、このCDとなって陽の目を見たということのようだ。
このレコーディングはベーシストしても名の馳せたPETER INDのスタジオでレコーディングされている。時期的にはあの名盤として名高いBILL EVANSとLAFAROのリバーサイド4部作(JAZZ批評 17.、 148. 158.と"SUNDAY AT THE VILLAGE VANGUARD") の中間期にあたる。

結論から言うと、このアルバムは実に粗っぽい。KUHNの若かりし頃の演奏ということで期待感も大きかったが、期待はずれであった。KUHNのピアノも若気の至りと言うべきか、やけにヒステリックだ。一方、LAFAROは当時の勢いを示すかのようなドライビング感たっぷりの演奏をしている。しかし、しかしである。LA ROCAがいけない。なんとまあ、こんなドラムを叩くドラマーであったかと耳を疑った。昔、LA ROCAのリーダー・アルバムである"BASRA"をよく聴いたものだけど、こんなドラミングしていた???

このデモ・テープではどこのレコード会社に持っていっても採用されるわけないと思った。ピアノ・トリオは3人揃って、ナンボの世界であって、一人LAFAROが頑張っていてもアルバムとしての評価が下がるのは止むを得まい。45年ぶりに発掘されたデモ・テープという以外に何の価値も見出せない。ましてや、「レアモノ」という希少性の価値観など全く持ち合わせていない僕にはただの詰まらないアルバムとしか思えないのだ。珍しいと言う価値観よりも音楽としての価値観が上回るのは至極当然のことだと思うのだ。

@"LITTLE OLD LADY" 一聴、ドラムスとのコンビネーションが良くないね。ピアノ・トリオに限らず一体感や緊密感のない演奏はジャズの醍醐味をそいでしまう。最近のKUHNの演奏からは想像し難いが、何やらPOWELL風である。
A"BOHEMIA AFTER DARK" LAFAROのベースが唸りをあげて高速4-ビートを刻む。LA ROCAが煽られて慌てふためいている感何にもましてシンバリングが汚い。

B"WHAT'S NEW" しっとりしていないバラード。
C"SO WHAT" 流暢なLAFAROのベース・ワークがいいね。しかし、KUHNのピアノが荒っぽいし、退屈なドラム・ソロだ。
D"SO WHAT (ALTERNATE TAKE)" 

偶然とは恐ろしいもので、このアルバムが宅配便で着いたその日に、期せずして、僕は仙台のDISK NOTEでSTEVE KUHNの別のアルバムを購入している。出張帰りにぶらりと立ち寄ったDISK NOTEで「これいいよ!」と奨められたのが次回紹介する"DEDICATION"
(2005.10.27)



独断的JAZZ批評 303.