山中 千尋
「手にとるな やはり野に置け れんげそう」
"OUTSIDE BY THE SWING"
CHIHIRO YAMANAKA(p), ROBERT HURST(b), JEFF "TAIN" WATTS(ds)
2005年5月 スタジオ録音 (VERVE UCCJ-2040) 


山中千尋は何故、レコード会社を替わったのだろう?
澤野工房のHPでこのことを知ったのはもう7ヶ月も前のことだ。当時、僕には一抹の不安があった。「澤野工房だからこそ山中千尋は輝いていたのではないか」と。そして、移籍第1弾のこのアルバムが発売された。
大手レコード会社・ユニバーサルへの移籍第1弾は「赤いべべ着て、しなを作っているモデル然とした山中」のジャケット・デザインで、いかにも大手レコード会社のやりそうなことだ。大々的に宣伝もプロモーションもかけ、雑誌社を巻き込んだ一大イベントとして扱われているようだ。因みに、ジャケットにはスイングジャーナル誌選定ゴールド・ディスクのシールが貼ってあった。
ついでに言うと、このCDはAの録音風景の映像まで見ることが出来る。映像という付加価値をつけて3000円という高値設定をしたのだろうけど、これは嬉しくない。緊張気味で硬い表情の山中のプレイを見て良かったと思う人は少ないだろう。

前置きが長くなったが、結論から言うと、このアルバムは山中千尋の傑作とは言えない。ROBERT HURST、JEFF WATTSの組み合わせは意図的なものだろうか?この豪腕サイドメンは山中の持つ音楽性とは、いや、ピアノ・トリオとは相容れないのではないか。むしろ、2管〜3管編成のハードバップ・スタイルにぴったりと嵌るのでは?特にHURSTのベースはピアノ・トリオには重いし、我が道を行くタイプのようだ。従い、ピアノが豪腕サイドメンに遠慮しながら合わせたという感じ。このアルバム、心の通わない平行線で緊密感や美しさに欠けるし、また聴きたいと思わせる演奏が少ない。全曲肩に力が入りすぎで、山中の持ち味が消されたという感じだ。更には、全曲、中山のアレンジとあるが、これも肩に力が入りすぎているように思う。

山中のベスト・アルバムと言えば"WHEN OCTOBER GOES"(JAZZ批評 113.)だろう。ジャケット・デザインも素朴で味がある。僕はこのレビューを書くにあたって、"WHEN OCTOBER GOES"と"OUTSIDE BY THE SWING"を1回おきに聴き比べて何回も聴いてみた。LARRY GRENADIER(b), JEFF BALLARD(ds)とのトリオは緊密感と瑞々しさに溢れているし、何よりもピアノに切れがあった。また、聴いた後には、演奏後のプレイヤーとスタッフの笑顔が目に浮かんだものだ。結果として、こういうことがプロデューサーの手腕の差となって表れるのだろうか?

@"OUTSIDE BY THE SWING" 
A"I WILL WAIT" 山中のオリジナル。いい曲だが、ピアノにいつもの切れがない。
B"IMPULSIVE" 
C"HE'S GOT THE WHOLE WORLD IN HIS HANDS"
 
D"TEARED DIARY" 
E"YAGIBUSHI" 
F"CLEOPATRA'S DREAM" ほとんどをシングル・トーンで通す。
G"MATSURIBAYASHI/HAPPY-GO-LUCKY LOCAL" 
H"2:30 RAG" 2分30秒の練習曲?
I"LIVING WITHOUT FRIDAY" 
J"ANGEL EYES" 最後のテーマでこの曲とわかるが、アレンジに懲りすぎでは?
K"ALL THE THINGS YOU ARE" 
L"CANDY" ピアノのバッキングとピアニカは同時に出来ないので多重録音なのだろう。皮肉なことにピアニカを手にした山中はピアノの呪縛から解き放たれたように活き活き伸び伸びと吹きまくっている。

多分、このアルバムは山中千尋というキャラクターと大々的な宣伝が功を奏し、"WHEN OCTOBER GOES"の何倍か売れるのだろう。売れたからといって、皆が満足しているわけではない・・・。
「手にとるな やはり野に置け れんげそう」 山中千尋には澤野工房が良く似合った。   (2005.09.25)



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独断的JAZZ批評 297.