RYO FUKUI
ヘッドホンを耳に当てたその瞬間に、
このアルバムの虜になってしまった
"SCENERY"
福居 良(p), 伝法論(b), 福居 良則(ds)
1976年9月 スタジオ録音 (SOLID CDSOL-1107) 


お盆休みを前にしてCDを何枚か調達しようと渋谷のHMVに出掛けた。僕の知る限り、この店がジャズCDの品揃えでは一番だろうか。フロアーの片隅に置いてあったCD試聴機にあったのがこのアルバム。日本人プレイヤーで、あまりと言うか、今までにまったく聞いたことのないピアニストのアルバムであった。
僕はヘッドホンを耳に当てたその瞬間に、このアルバムの虜になってしまった。
ジャケットを見ると1976年の録音だと言う。この時、福居は28歳で、これがデビュー・アルバムだったという。ジャケットのライナーノーツによると、このアルバムもJAZZ批評 280.のTOMMY FLANAGANのアルバムと同様に今はなきトリオ・レコードが原盤を持っていたらしい。それが再発盤としてようやくを陽の目をみたということのようだ。
福居のオリジナルが3曲。うち2曲(F、G)はセカンドアルバムからの抜粋。@、A、C、Dがスタンダード・ナンバーとして定着した有名曲。

@"IT COULD HAPPEN TO YOU" 硬いピアノのタッチでイントロが始まる。テーマはスウィング感満載の4ビート演奏となる。逞しいベースと軽快なブラッシュ・ワークに乗ってピアノが硬質なシングル・トーンを積み重ねていく。3人のバランスも良くて指でも鳴らしながら聴いて欲しい1曲だ。
A"I WANT TO TALK ABOUT YOU" バラード調のスタンダード・ナンバー。曲が良いねえ。しっとりバラードから徐々にテンションを上げていく。ブラッシュ・ワークがサクサクと気持ちいよい。
B"EARLY SUMMER" ピアニスト市川秀男のオリジナル。ゴリゴリの8ビートに乗ってスウィング。途中、バイテン(倍のテンポ)になったりするが、一貫して躍動感が横溢している。
C"WILLOW WEEP FOR ME" これもあまりに有名なスタンダード・ナンバー。物憂げなテーマとアドリブ。

D"AUTUMN LEAVES" けれんみのないストレートな4ビート演奏。シンバルをチンチカ・チンチカと刻みベースが4ビートでウォーキング。ピアノは「楽しいな!」という感情表現でシングル・トーンを積み上げていく。ベース・ソロでは伝法のベースが強くて硬い「いい音」で歌っている。
E"SCENERY" 福居のオリジナル。バラードにあってもピアノのタッチの強さが命だ。ジャズはベースもドラムスもピアノもタッチの強さこそなくてはならない要素であり、ジャズの原点とも言うべきものだろう。じっくりと堪能いただきたい。。
F"MELLOE DREAM" イントロにおけるフレージングに明らかにKEITH JARRETTの"THE KOLN CONCERT"(JAZZ批評 3.)の影響を認めるが、これはこれで良いではないか。中盤以降はアグレッシブでハード・ドライブな演奏となり高揚感が最高潮に到達する。
G"HORIZON" これも福居のオリジナル。ベースが唸り、ドラムスが跳ね、ピアノが歌う。

このアルバム、音が良い。30年も前の録音というのに現代の録音と遜色がない。むしろ、ベースの音などはピチカートのアタック感までもを再現してみせた。こういう素晴らしいアルバムを復活させたレコード会社に感謝の気持ちを伝えたい。ありがとうと・・・。
更なる名盤復活を期待しながら、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2005.08.15)   



独断的JAZZ批評 288.