派手さより真面目さが目立ったアルバムである
丹念に、丹念に、1曲ずつを聴いて欲しいと思う
"STRANGER IN PARADISE"
PETER BERNSTEIN(g), BRAD MEHLDAU(p), LARRY GRENADIER(b), BILL STEWART(ds)
2003年8月 スタジオ録音 (VENUS RECORDS TKCV-35324)

PETER BERNSTERINというギターリストを僕は知らなかった。興味を引いたのはサイドメンだ。今や、GARY PEACOCK〜JACK DeJOHMETTEに次ぐ最強のリズム陣、LARRY GRENADIER〜 BILL STEWARTという強力バックアップにBRAD MEHLDAUが参加したという豪華絢爛の組み合わせだ。
GRENADIERとSTEWARTの組み合わせはAKIKO GRACEのトリオ(JAZZ批評 101.144.)やPAT METHENYのトリオ(JAZZ批評 8.)でも実力のほどを遺憾なく発揮している。というよりも彼らあってのトリオ・アルバムだったと僕は思っている。その二人にMEHLDAUが絡むとどうなるのか凄く興味があった。

@"VENUS BLUES" 先ずは素晴らしいSTEWARTのドラミングを堪能いただきたい。この人のドラミングは4ビートを打つ、それだけで躍動感が湧いてくる稀有なドラマーだ。それと久しぶりに聴くMELDAUの快演も付記しておこう。8小節交換でのSTEWARTの切れ味鋭いドラミングには唸ってしまう。
A"STRANGER IN PARADISE" 各プレイヤーが好き好きにスタートしたスタンダード・ナンバーが徐々にひとつに収斂されていくその様が楽しい。MEHLDAUのブロック・コードを中心としたバッキングがイケテル。続くソロも往年の豊かなイマジネーションを感じさせるものだ。ギターのBERNSTEINの演奏は奇を衒ったところがないオーソドックスな演奏に好感がもてる。
B"LUIZA" A.C.JOBIMの美しい曲。ギターにマッチした佳曲。ブラッシュ・ワークとピアノのバッキングが素晴らしく、ギターのソロが引き立つというものだ。ここ数年「らしさ」を失っていたMELHLDAUがMEHLDAUらしさを出した演奏だ。
C"HOW LITTLE WE KNOW" ミディアム・ファーストの軽快な曲。ここでもSTEWARTの4ビートが素晴らしく、それに乗って、BERNSTEINが懐かしさを感じさせるオクターブ奏法も披露して楽しい1曲に仕上がった。
D"BOBBLEHEAD" 8ビートのBERNSTEINのオリジナル。これはパス。
E"JUST A THOUGHT" 強靭なサポートの上でギターもピアノものびのびとしたプレイを展開する。
いつもながらの力強いGRENADIERのベース・ワークは健在だ。このベースとセンシティブで歌うが如くにプレイするBILLのドラミングの組み合わせは最高だ。
F"THIS IS ALWAYS" ギターの美しいイントロで始まる。MEHLDAU節とも言えるソロがいい!これを聴くと良い時のMEHLDAUに戻りつつあるなと思う。

G"SOUL STIRRIN" ミディアム・テンポのブルージーな曲。曲もいいけど BERNSTEINのアドリブも良し。続くMEHLDAUのソロもご機嫌だ。新たな一面を垣間見せた。更には図太いGRENADIERのベースソロも聴きものだ。
H"THAT SUNDAY,THAT SUMMER" グループとしての一体感を感じる。ここでもキー・プレイヤーはSTEWARTだ。
I"AUTUMN NOCTURNE" 最後を締めるミディアム・テンポの曲。

豪華絢爛な顔合わせにも拘わらず、奇を衒ったりこけおどし的な演奏はない。むしろ真面目にひとつの音楽を探求しあったという感じだ。非常に好感の持てるアルバムに仕上がった。リーダーであるPETER BERNSTEINの人となりが表れた一作だと思う。現在、最強のジャズメンと言われるMEHLDAU〜GRENADIER〜STEWARTが集まって、己の色を出すのではなくひとつにまとまって音楽を追求した姿勢が素晴らしい。派手さより真面目さが目立ったアルバムである。
丹念に、丹念に、1曲ずつを聴いて欲しいと思う。聴けば聴くほど味の出てくるアルバムに相違ないと僕は思う。その一方で主役のギターにもう少し「華」が欲しいと思うのも事実である。   (2004.02.07)



PETER BERNSTEIN

独断的JAZZ批評 178.