毒気の抜けた好々爺のピアノ・トリオ
"GODFATHER"
RAY BRYANT
(p), LYLE ATKINSON(b), WINARD HAPPER(ds)
2002年6月 スタジオ録音 (M&IJAZZ MYCJ-30242)

正月というのはいくらでも時間がありそうで時間がない。暇で退屈しそうで暇がない。だからじっくりジャズ三昧に浸っている時間がなかった。遅ればせながら普段のペースに戻ってジャズを聴き込んでみよう。

RAY BRYANTは1931年12月生まれというから満72歳になったところだ。 RAY BRYANTのピアノ・トリオの代表作というとJAZZ批評 19.41.が上げられるだろう。いずれ劣らぬ好演盤である。
翻ってこのアルバム。第1印象は実にソフトな印象。往年のブルース・フィーリングとガッツ溢れる演奏スタイルを知る者にとっては少し寂しい。

@"2 DEGREES EAST,3DEGREES WEST" JOHN LEWISを偲んで収められたのがこの曲と次のA。この曲はブルース。往年のタッチの強さは影をひそめ軽いタッチに終始する。この辺が不満と言えば不満だ。ベースもドラムスも同じノリ。ベースなんかはアンプの増幅が強くて本来のピチカートのアタック感やドライブ感は期待できない。兎に角、僕はこういうベースの音が嫌いだ。
A"D & E" @と曲想が似ているのとキーが同じなので、うっかり聴いていると同じ曲と思ってしまう。

B"MARCH,JOHNNY,MARCH" ちょっと大袈裟なイントロではあるが、アドリブに入ると4ビートに乗って軽快なピアノが聴ける。
C"LOVE THEME FROM GODFATHER" タイトル曲にもなっている「ゴッドファーザーのテーマ」である。ベースのアルコ弾きによるテーマ演奏もあり、実に叙情的な演奏で躍動感やスリリングさを期待することは出来ない。こういうのをジャズ風ド演歌というのだろう。

D"ELEVATION SUITE : IMPRESSIONS-SO WHAT-ELEVATION" 言っては悪いけど、ベースも老骨に鞭打ってハイ・スピードに挑戦してみましたというところか。やはりベースの音にビート感がないということが致命的。
E"NARDIS" MILES DAVISの書いた名曲。"TRIO TODAY '87"の中でも演奏されている十八番。当時のメンバーはベースにRUFUS REID、ドラムスにFREDDIE WAITSが参加しおり、アレンジはほとんど変わっていないが'87年の演奏の方が若々しく華がある。

F"UP ABOVE THE ROCK" 
G"ANGEL EYES" ピアノ・ソロ。こういうソロを聴いているとRAY BRYANTのピアノは今も依然と素晴らしい。腕が鈍ったなんてことは微塵も感じさせない。
H"BROADWAY" スウィンギーな曲。

総じて、このアルバムは毒気の抜けた好々爺のピアノ・トリオという感じ。このRAY BRYANTが過去に出したアルバムの素晴らしさを知っている人間にとっては何とも歯がゆいアルバムだ。ここはRAY BRYANTの名誉のためにも飛び切りの一発を紹介せねば片手落ちというものだろう。
期せずして、僕はモントリュー・ジャズ・フェスティバルのソロを思い浮かべてしまった。   (2004.01.07)



RAY BRYANT

独断的JAZZ批評 172.