"ANIRAM"
  「寒月」を想起させるような澄み切った空気が流れる・・・
"TRINACRIA"
ANDREA BENEVENTANO(p), PIETRO CIANCAGLINI(b), PIETRO IODICE(ds)
2003年スタジオ録音 (ALFA MUSIC AFMCD106)

前回に続いて、仙台の「ディスクノート」で購入した4枚の中から好演盤を紹介しよう。ピアノ・トリオの希望条件を言って、ピックアップしてもらったアルバムだ。こういう痒いところに手が届くサービスは有難い。
で、今回は今年録音されたイタリア盤だ。まだ無名な(と言っても良いと思われる)プレイヤーのアルバムだ。勿論、僕自身も初めて聴いた。このピアニスト、ドライブ感満載でゴリゴリバリバリ弾くこともできるし、しっとり系を情感豊かに演奏することも上手い。芯の通った透明感の強いピアノである。ベース、ドラムスとのバランスも良いし、なかなか楽しめる1枚だ。
極めつけはGのしっとり系バラード。これ一聴の価値あり。                     

@"I REMEMBER YOU" スタンダード・ナンバーをリラックスして軽快にこなす。リズムの歯切れのよさが印象的。ブラッシュからスティックに持ち替えると小気味良い4ビートを刻み、その後、ベースとブラッシュの8小節交換を経てテーマに戻る。
A"LUA BRANCA" どこかで聴いたことがあるような曲。そうだ!山中千尋 の"WHEN OCTOBER GOES"(JAZZ批評 113.)の1曲目に入っている"TAXI"に曲想が似ているのだ。

B"HE WAS GREAT" このオリジナル曲も良い。 BENEVENTANOはなかなかのメロディ・メーカーでもある。ドラムスも歯切れの良いブラッシュ・ワークで良く歌うタイプだ。
C"TRINACRIA" 躍動感のあるモーダルな演奏。粒立ちのはっきりしたピアノ・ライン。
D"LINES FOR RG" ダイナミックにして流麗なピアノが展開される。剛にして柔。ドラム・ソロが豪快に歌う。心憎いばかりのミディアム・テンポでエンディング。

E"SOUL EYES" M.WALDRONの曲。最近ではKENNYBARRONとGEORGE ROBERT(JAZZ批評 147.)の名演があるが、これも充分楽しめる。このピアノが良いのはこういうスローな曲においても躍動感を失っていないことだ。
F"TRAVERSI'S BLUES" 超速のブルース。それなりの技術がないとこの速さでは弾けない。あっという間の3分間。

G"ANIRAM" ベースのアルコ弾きで始まる美しいバラード。もっとも印象に残る曲。2ビートで演奏される中、ドラムスだけはブラッシュで8ビートを刻む。この斬新なアプローチとあまりに美しく神秘的なサウンドにうっとり。なおかつ、スローでありながら躍動感がある。BENEVENTANOのオリジナルであるがコンポーザーとしても一流だと納得する一曲。絶品の演奏を聴け。「寒月」を想起させるような澄み切った空気が流れる・・・。

H"MY ONE AND ONLY LOVE"
 ピアノ・ソロ。個人的にはもっとも好きなスタンダード・ナンバーのひとつ。
I"GIPPO'S GROOVE" ひょうきんなテーマのオリジナル。緩急、変幻自在の演奏。何回も聴いているとその良さがジワリと分かってくる。

@、E、H以外は全てBENEVENTANOのオリジナル。どの曲も味があって印象に残るテーマだ。演奏も3者のバランスが良く、各曲ごとの多様な味わいを楽しむことが出来る。
このアルバムも「manaの厳選"PIANO & α"」に追加することに躊躇はいらない。   (2003.12.12)



ANDREA BENEVENTANO

独断的JAZZ批評 168.