PAUL SHINN TRIO
アメリカのジャズの裾野は広いと感じさせるアルバム
"REASON PURE"
PAUL SHINN(p), DOMINIQUE SANDERS(b), RYAN LEE(ds)
2013年7月 スタジオ録音 (自主制作盤)
PAUL SHINNは初めて聴く。
カンザスシティで活躍する若手ピアニストのデビュー・アルバム。カンザスシティは1930年代の禁酒法時代に栄えたミズリー州にある街で、COUNT
BASIEが脚光を浴び、CHARLIE PARKERが生誕した街でもある。ニューオリンズがジャズ発祥の地とするならば、カンザスシティはジャズ発展の地と言われている。
伝統の地だからだろうか?巻末のYouTubeでは3人ともスーツを着てネクタイを締めて演奏している。古き良き時代のノスタルジアを残しながら新しさを追求している姿が好ましい。
@"SHIFTING NEFARIOUSLY" グルーブ感に溢れる泥臭いテーマ。アーシーだ。土着のジャズっていう匂いがプンプンする。
A"MY HEART STOOD STILL" R. ROGERSの書いたスタンダード。オーソドックスな演奏だが、変に奇を衒わないのがいいね。これがSHINNの基本的なスタイルなのだろう。無名の黒人ベーシスト・SANDERSのベース・ワークにも注目したい。
B"ALL THE THINGS YOU ARE" ジャズの中で最も演奏される回数が多いのではないかと思われるJEROME KERNの書いたスタンダード。KERNは「煙が目にしみる」を書いた作曲者でもある。
C"HEY! THAT'S OUR BILL" 一転して多ビートの演奏だが、ちょっとノスタルジーを感じさせるテーマ。昔、こういう曲が流行った。
D"TUNE UP" MILES DAVISが書いたとされる曲で名盤"COOKING"に挿入されている。若者らしい外連味のない演奏がいいね。
E"REASON PURE" これもアーシーなオリジナルだ。アップテンポで3者が丁々発止のバトルを繰り広げている。なかなかいいね。
F"IN MY LIFE" LENON/McAERTNEYの曲をさりげなく挿入しているあたり、現代の若手ピアニストだね。
G"GIANT STEPS" ブギウギ風のイントロで始まるこの曲は巨匠・COLTRANEの曲だ。この曲も多くのジャズ・ピアニストが好んで取り上げる曲のひとつだ。テーマの後は心地よい4ビートを刻んでグイグイ進む。コロコロ良く転がる右手だ。
H"CHALK MOUNTAIN" ピアノの静かなイントロで始まる。その後、イン・テンポになる。マレットを用いたドラミングが効果的。
I"THE BALLAD OF THE MISSAL ROBBER'S SON" 唯一、エレクトリック・ピアノを使用している。ベースもエレキだ。このグループ、一体感や緊密感もあるし、若者らしい外連味のなさもいいね。
アメリカのジャズの裾野は広いと感じさせるアルバム。
以前紹介したJOEL HOLMES"ETERNAL VISION"(JAZZ批評 790.)とかJOHN NAZARENKO"WITH ERIC HARLAND & MATT PENMAN"(JAZZ批評 818.)も自主制作盤だったけど、本アルバムも自主制作だ。
レコード会社に目を付けられなくても、地元のライヴハウスに根を張ってこんな風に活躍出来ているというのがアメリカの裾野の広さを表している。
この種の演奏はライブでこそ真価が発揮できる。カンザスシティの、客席から手の届くような小さなライブハウスでこんなの聴けたら最高でしょう!
併せて、巻末のYouTubeでライブ演奏を堪能いただきたい。 (2015.02.27)
試聴サイト:http://www.cdbaby.com/cd/pauls活躍しているhinntrio
参考サイト:https://www.youtube.com/watch?v=UsjXxyTKbEA
こちらは本アルバムと同月のライブ録音。演奏曲も同じ。
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