独断的JAZZ批評 876.

ENRICO PIERANUNZI
「うねるような躍動感」を満喫できる
"STORIES"
ENRICO PIERANUNZI(p), SCOTT COLLEY(b), ANTONIO SANCHEZ(ds)
2011年2月 スタジオ録音 (CAMJAZZ : CAMJ 7875-2)


本アルバムと同じメンバーで録音された2009年録音"PERMUTATION"(JAZZ批評 746.)はNEW AMERICAN TRIOと名付けられていたが、アメリカ・ジャズ・シーンの最先端のプレイヤー、SCOTT COLLEYとANTONIO SANCHEZを揃えた割にはPIERANUNZIの「らしさ」が抜けてしまったと感じたし、評価も決して高いものではなかった。それから2年後に録音されたのが本アルバムだ。新譜という割には古くて3年も前の録音だ。
昨年の9月には東京のCOTTON CLUBで来日公演を行っているが、その時のメンバーは、ベースにLARRY GRENADIER、ドラムスにJEFF BALLARDというBRAD MEHLDAU TRIOのサイドメンを借りてきたような陣容であった。生憎、僕は入院中で行けなかったので、息子夫婦に行ってもらったのだが・・・。
今現在、どちらのメンバーがオリジナル・トリオなのか分からないが、とにもかくにも、最新盤ということでレビューしてみたいと思う。

@"NO IMPROPER USE" いきなりハードな演奏が耳を刺激する。一聴、息が合ってるなと感じたその瞬間からPIERANUNZI独特のうねるような躍動感のアドリブが始まった。刺激的でスリリングな演奏だ。COLLEYのベースもSANCHEZのドラムスも躍動している。テンポが変幻自在に変わっていく。
A"DETRAS MAS ALLA" 
ドラムスのソロで始まる。続くPIERANUNZIのピアノはヨーロッパの格調高い香りを放っている。前回のアルバム"PERMUTATION"に比べて、グループとしての一体感があるし、うねるような躍動感も健在だ。これこそ、待ち望んでいた演奏だ。こりゃあ、本来の姿が戻ってきたね。3者の録音バランスも申し分ない。
B"BLUE WALTZ" 
PIERANUNZIのほかのアルバムで聴いたような気がしたので探してみた。TERJE GEWELT名義のアルバム"OSLO"(JAZZ批評 528.)に収録されていた。うねるような躍動感が顕在で似たように聴こえるのかもしれない・・・。益々興が乗ってきた。これはいいね!
C"THE SLOW GENE" 
しっとりしたテーマからベースとピアノの会話が始まる。間に楔を打つドラムスが効果的。 
D"WHICH WAY IS UP" 
抽象画風のピアノとドラムスのデュオ。これはこれで面白い。ピアノとドラムスのキレキレの演奏が聴ける。アルバムのアクセントになっていてスカッとする。
E"WHERE STORIES ARE" 
静謐なピアノの音色にサクサクとしたブラシと硬質なベースが絡むバラード。
F"FLOWERING STONES" 
これも静かなテーマだ。と思っているうちに高揚感が増してくる。
G"THE REAL YOU"
 ベースがテーマを執り、ピアノが花を添えるリリカルなデュオ。

COLLEY作のCを除く7曲がPIERANUNZIのオリジナルである。どの曲もしっかりと「いいテーマ」の条件を満たしている。前半は熱く、後半はしっとりという感じだ。
演奏的には@、A、B、Dが断然よくて、C、E、F、Gの4曲はスローテンポの演奏が多くもうひとつ乗り切れていない。評点で言えば、5点満点として、前半の演奏には気分的に6点を進呈したいくらいで、後半は星4つ。平均で5点ということで良いのではないか。(ちょっと甘めだけど・・・)
PIERANUNZIのベスト・アルバムは2001年録音の"LIVE IN PARIS"(JAZZ批評 324.)だと思っているのだが、熱っぽさこそライヴ盤に敵わないが、本アルバムも「うねるような躍動感」を満喫できるということで、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2014.05.23)

試聴サイト :
 http://www.camjazz.com/home/8052405141262-stories-cd.html
          例によって、このサイトでは全曲、フルに試聴できる。



.