KOJI GOTO
後藤浩二、渾身のピアノ・ソロである
"ONTOLOGY"
後藤浩二(p) 2013年12月 スタジオ録音 (TOAST : TBCJ-14051)
"ONTOLOGY"とは哲学用語で「存在論」という意味らしい。
後藤が数えきれないくらいほどのセッションを共にした今は亡きベーシスト・岡田勉の曲と自作曲をソロで表現したスタジオ録音盤。
岡田勉とのグループ"THE EROS"では"QUIET THRILL"(JAZZ批評 612.)という傑作アルバムを残している。その岡田は昨年の10月に帰らぬ人となった。
EとFが後藤のオリジナルで残る全てが岡田の書いた曲だ。
本アルバムは長い闘病生活を送っていた岡田への応援の意味を込めてアルバム制作がスタートしたという。"ONTOLOGY"とは、たとえ今はステージに立てない状態であっても、岡田が存在していてくれるだけで意味があるということで付けられたタイトルだという。
@"NOW I SMILE (TAKE 2)" 美しい曲だ。こういうメロディは日本人の琴線に触れるだろう。日本的情緒が残されている佳曲。グルーヴ感もあり静かに熱を帯びた演奏だ。
A"FIRST SHOW" 前曲に続いて熱っぽい演奏だ。ブルース・フィーリングに溢れた32小節の歌モノ。
B"SOPHIA 15" 切なくて優しいバラード。切々と歌い上げる後藤のピアノが心に沁みる。
C"SAY NOTHING AT DAWN" どこかで聞いたことがあるような、懐かしいようなテーマ。「何も言わなくても分かるよね・・・」そんな感じ。"QUIET THRILL"にも収録されている。
D"SOLITAIRE" これも切ないバラード。岡田勉はメロディ・メーカーでもあったと証明してみせた。
E"BEN'S BLUES" もちろん、"BEN"とは勉(つとむ)のことで、岡田に捧げたブルース。
F"SOMEWHERE IN TIME" "HOPE"(JAZZ批評 465.)でも演奏されている美しい曲。この演奏も堪らなく切ない。後藤もまた紛れもないメロディ・メーカーである。
G"NOW I SMILE (TAKE 1)" @はこのアルバムの幕開けに相応しいグルーヴ感と熱気を感じさせたのに対し、こちらはエンディングを担うに相応しく余韻を残して終わる。
後藤浩二には"QUIET THRILL"のほかにもう1枚忘れてならないアルバムがある。ベースにLARRY GRENADIER、ドラムスにHARVEY
MASONを迎えた"HOPE"(JAZZ批評 465.)がそれだ。中でも、4曲目の"HOPE"はジャズを聴いていて良かったという代物で、機会があれば是非、聴いて欲しいアルバムだ。
岡田勉、その人の存在そのものに意味があるとする存在願望も実らず、帰らぬ人となってしまったが、仲間たちのその想いは本アルバムとなって存在し続けるだろう。
大石学や小曽根真などとともに、日本のジャズ・ピアノを代表するプレイヤ−・後藤浩二、渾身のピアノ・ソロである。今は亡きベテラン・ベーシスト、岡田勉に想いを馳せながら、心に沁みる演奏に身をゆだねようと思った。
いわば、岡田勉の書いたバラード集とも言うべきアルバムではあるが、迷わず、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。 (2014.05.20)
試聴サイト : https://www.youtube.com/watch?v=5U_fu5_MeB8
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