“シネ・ヌーヴォ”開館20周年記念パーティ


 大阪のミニシアター“シネ・ヌーヴォ”の開館20周年記念パーティに参加してきた。昨年末にトイレの改修ほかのリニューアル工事を行うためのクラウドファンディングを行ったところ、想定期間よりもかなり早くに目標額を上回る申し込みを受けたと聞き、この20年間のミニシアターとしての活動が如何に支持され、評価されているかを再認識させられたこともあって、支持する人々がどういう感じで集まってくるのだろうと思い、久しぶりに足を運んだ。招待状に添えられて送られてきた開館当時の映画新聞で、二十年前に寄稿した拙稿「新・映画館「シネ・ヌーヴォ」を訪ねて」を読み懐かしさが募ったことも作用した気がする。
 また、映画新聞が拙著『高知の自主上映からー映画と話す回路を求めてー』を発行してくれた際に、帯に推薦文を書いてくださった亡き黒木和雄監督の特集上映を20周年記念企画として打ち出していたことにも縁を感じていたのだが、あいにく黒木監督の特集上映は前日の金曜日で終わり、当日は第二弾となる東陽一監督特集の初日と重なっていた。

 パーティの開始時刻の二時間前に着いたシネ・ヌーヴォの入り口で代表の景山さんと遭遇し、「いやぁ、わざわざ来てくれたの、遠くから」とにっこりされて、「じゃあ、サトリ、観る?途中だけど、監督トークもあるし。高知から来てくれているコミュニティやってた人も中にいるし。」と案内された。そう言われるとたちどころに思い当たる旧知の上映仲間の顔が浮かんだ。
 久しぶりに会う景山さんは再婚後すっかり健康体を維持していて、昔の不健康まる出しの外見からは別人にリニューアルされているのだが、遂にシアターのほうもリニューアルかと感慨深いものがある。集まった資金で何をしたのかという記録も兼ねた20分程度の短編作品『シネ・ヌーヴォ20周年プロジェクト』(監督 小田香)も製作していて、シネ・ヌーヴォという映画館の成り立ちから説き起こし、館に置かれたこれまでの雑記帳のなかから拾い上げた観客の声なども採録しながら、維新派の拵えた味のある装飾をクリーンアップしている様子を映し出していた。そこには、客席入口の書籍棚も映っていて今なお拙著が並べられていることが著者の僕にしか判らないような淡い緑色で浮かび上がっていて嬉しくなった。20年間のうち今現在に至る16年間、支配人を続けて来ている山崎紀子さんが紹介していたように、シネ・ヌーヴォという映画館の核心をきちんと捉え、映し出している作品だと思った。

 短編作品の上映の後、移動した記念パーティ会場の九条東会館では、景山さんとは対照的にぐっと体重の増加していた株式会社ヌーヴォの代表取締役江利川さんとも再会し、東監督に誘われて飛び入り参加した高知でのかつての上映仲間を通じて、むかし映画新聞で記事を並べていただいたこともある倉田剛さんと初めて話をすることができた。高校教師を退職した今は、十三のナナゲイの一階下にシアターセブンを開き、そこでプログラムディレクターをしているのだそうだ。ネットの映友とも十数年ぶりに再会し、持参してくれた拙著にサインを求められたりもした。

 皆々、スクリーンで映画を観ることを愛して止まぬ人々が集っていて、とても気持ちのいい時間だった。そして、幾人もの方々が行なっていたスピーチのなかで、山崎支配人が涙ぐんだりしていた姿がとりわけ心に残った。また、オープン当時に販売していた覚えのある鶏めしが包まれているはずの竹皮を紐解き、大いに懐かしんだ。二時間ほど経って人数の少し減ってきた午後五時前にこじんまりした二階会場と一階会場に分かれていたものを一つにまとめて移動したのを機に、僕は東監督の出世作『サード』['78]を観にシネ・ヌーヴォに戻った。

 昨年、高知で演劇活動に携わっている十年来の顔見知りから、やおら自分が軒上泊の息子であることを告げられ、彼が原作者である『サード』の話になりながらも、原作は未読で、映画作品も何十年来観ていなかったということがあったからだ。お昼に途中から観た『日本妖怪伝サトリ』['73]が実に色鮮やかだったことからすると、余りに色落ちの激しい劣化したフィルムの状態が残念だったものの、若き永島敏行の走る姿勢の良さに観惚れ、ⅡBを演じた吉田次昭や新聞部の森下愛子、テニス部の志方亜紀子たちの確かな時代性をまとった若々しい姿に触発されるものがたくさんあった。

 やはり来てよかったなと表に出ると、昼に劇場を訪れたときと同じく奇しくも景山さんに遭遇。「これからどうすんの?」と訊かれて「今日は特に予定はない」と答えると、鍋を囲んで二次会をやってるんだけど、人数が足りなくなっちゃって、途中からでいいから参加してよ、監督のとこに案内するからと引っ張って行かれ、思い掛けなくも東監督やシグロの山上徹二郎さんとあれこれ話をする機会に恵まれた。お二人のコンビによる最新作『だれかの木琴』['16]は、昨年11月に高知でも地元ロケの『絵の中のぼくの村』['96]とともに上映されたのだが、あいにく平日の昼間の一回上映で観ることができなかったのがとても残念に思われたが、実に愉しく過ごすことのできた開館20周年記念パーティだった。
by ヤマ

'17. 1.21. 大阪九条シネ・ヌーヴォ



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