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| 『古都』['63] 『雪国』['65] | |||||
| 監督 中村登 監督 大庭秀雄 | |||||
| 今回の課題作には、ともに川端康成原作、岩下志麻主演の二作品が並んだ。僕は『古都』『雪国』とも原作未読だが、映画化作品はそれぞれ、原作の後日譚を描いたYuki Saito監督作『古都』['16]と豊田四郎監督作『雪国』['57]を観ている。今回のカップリング作はともに初見だが、さほど食指が動いていなかった割には、思いのほか観応えがあった。 先に観た『古都』は、'63年作だから岩下志麻二十二歳時分の作品だ。古都に相応しい落ち着きぶりに感心させられたが、お話そのものは、妙に辛気臭く余り響いてこなかった。他方で、忌み嫌われる双子に生まれて捨てられ、生き別れた姉妹を二役で演じた岩下を撮った撮影技術の妙味は、高知出身の写真家石元泰博の作品を想起させるカットの連打で始まったオープニングともども実に鮮やかで、さすがの成島東一郎だと思った。生き方であれ、柄のデザインであれ、フォルムというものが主題だったように感じるのは、専ら成島東一郎による撮影のもたらしたものだったような気がする。 それと同時に辛気臭い印象を残したのもまた、画面の落ち着いた色調というか暗さであって、序盤で千重子(岩下志麻)の父の佐田(宮口精二)が「もうちょっとパァっと明るい派手やかなのはおまへんか、パァっと」という客に「うちにはどうもそういう派手な柄が…」と番頭が応える遣り取りに憤慨していた場面と呼応していたように思う。加えて岩下志麻の口調にしても武満徹の音楽にしても確信的に明るい派手さを避けていた気がする。その分、着物も物言いも明るい真砂子を演じていた環三千世が目を惹いた。 紅殻格子(べんがらごうし)というのは初めて聞いたように思うが、町家や民家の茶に近い赤で塗った格子のことらしい。塗と言えば、岩下志麻が演じ分けていた千重子と苗子のメイクがなかなか見事だった。老舗呉服屋のお嬢様として育った千重子の気品と北山杉の山里で働く苗子の少し野暮ったい素朴さの対照に、最初よく観なければ同一人物とは思えなかった。千重子を想う西陣職人の若者(長門裕之)が織った帯のごとく、非常に丁寧に美しく撮られた映画だった気がする。 翌日観た『雪国』は、岸恵子が駒子を演じた映画の八年後の作品だ。先に観た『古都』と同じく成島東一郎による端正な画面が美しい。だが、フォルムやデザインを意識させる知的な絵造りとは、ある意味対照的な情緒や風情を強く印象づけるような構図の美しさを感じさせられて恐れ入った。カラー作品なのに最初のロゴからタイトルバックまではモノクロにしたのは、いったい誰の意向だったのだろう。おそらくは川端康成による題字の書を際立たせるための趣向だったような気がする。 岸恵子とほぼ同じ年頃で岩下志麻が駒子を演じた本作では、岸恵子版を観て「ある意味、健気とも言える駒子を演じつつ、科の作り方といい、喋り方、視線の遣り方といい、こういうのを魔性というのだろう」と記した魔性ではなく、十六の歳から亡き親よりも年嵩の旦那に囲われ、芸で身を立てようとしつつも玄人女として世を処する生き方から抜けられない女の哀れを強く感じさせる人物造形のように感じた。岸恵子と同様に二十代半ばとは思えない臈長けた色香を醸し出していて感心したが、魔性ではなく哀れを催す本作の駒子よりも岸恵子版のほうが僕は好かったように思う。駒子の許婚らしき行男に恋し看病に勤しんでいた葉子についても、本作の加賀まりこよりも、同年作の『美しさと哀しみと』で彼女とのレズビアンの相方を演じていた八千草薫が葉子を演じていた、豊田四郎版のほうが好かったような気がしている。 ただ駒子の哀れが際立った分、豊田監督版でも「「必ず」と交わした(再訪の)約束を反故にしながらも「自信のない責任を負うほどの無責任はない」などと説諭したりする、いつも悠然と構えたダンディを気取ったインテリ日本画家」と記した島村(池辺良)以上に、いけ好かない癪に障る本作の翻訳家である島村(木村功)のいい気さ加減に苛立った。責任を取る必要のない都合の良さに胡坐を掻いている玄人女遊びを愉しみつつ、越後の雪国育ちの女性の辛抱強さに対して「(越後)縮のように清らかな心を持った根の涼しい雪国の女」などと呟き「そして僕は自分の罪の深さを知った」などと言ってのける傲岸不遜さにも呆れた。木村功の些かも悪びれたところのない口調がまた大いに気に障る島村で、木村功の巧演に感心させられた。そして、両作における登場人物の造形の違いを原作に当たってみたくなった。十二年前に「これは未読の原作を読まなくてはという気にさせられた」と綴りながらも、十代の時分から書棚にある、未読の原作小説を今度こそは読んでみようという気になった。 男女五人のメンバーが参加した合評会では、支持が三対二に分かれた。端正な画面で時代の波に喰われゆく旧きものを捉えた『古都』への支持が、女の哀しみを岩下志麻が儚く美しく演じた『雪国』を僅かに上回った。女性メンバーを筆頭に、島村のいい気なろくでなしぶりが顰蹙を買った点が作用した面もあるような気がする。それについては、確かに暮らしに何の不自由もしていないインテリのいい気さ加減はあるものの、現在の物差しで測ってろくでなしというのも酷な気がするとの擁護意見があり、他方で『古都』に対しては、京都生まれのメンバーから、観光名所めぐりのような作品のように映ったことへの興醒めと、物語に京都を舞台にする必然性が感じられなかったとの厳しい意見も出てきたところが面白かった。形を大事にする旧きものへの拘りを覗かせる物語として、むしろ京都を舞台にしてこそ映える物語だと僕は受け取っていたからだ。 『古都』での二役のみならず、若くして充分以上に見せる岩下志麻の演技力に対する称賛の声が続き、今の時代に彼女のような若手女優は見当たらないとの意見に対しては、僕も含めて誰からも具体的な候補者名が挙がらなかった。河合優実ファンのメンバーが彼女の名を挙げるのではないかと密かに思っていたのだが、予想が外れた。また、原作者の川端康成について様々な見解が出されて、なかなか面白かった。 | |||||
| by ヤマ '26. 3. 2. DVD観賞 '26. 3. 5. DVD観賞 | |||||
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