『フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白』(The Fog of War: Eleven Lessons from the Life of Robert S. McNamara)['03]
『将軍ルメイ “悪魔”と呼ばれた男』['26]
監督 エロール・モリス
NHK 映像の世紀バタフライエフェクト

 原題では、副題が「マクナマラ元米国防長官の11の人生訓」となっている『フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白は、かねてより気になっていた作品で、YouTubeで無料視聴できるとは思い掛けなかった。手元に取ってあった公開時のチラシに記載されている11の人生訓は以下のとおり。

 1.敵の身になって考えよ 2.理性は助けにならない 3.自己を超えた何かのために 4.効率を最大限に高めよ 5.戦争にも目的と手段の“釣り合い”が必要だ 6.データを集めろ 7.目に見えた事実が正しいとは限らない 8.理由付けを再検討せよ 9.人は善をなさんとして悪をなす 10.“決して”とは決して言うな 11.人間の本質は変えられない

 彼自身が最大の教訓だと語っていたのは「2.理性は助けにならない」だった。どう考えても“絶対悪”としか思えない戦争の回避をしなかった元国防長官の言い訳のようにも思えなくないが、本音でもまたあるような気がした。日米戦での焼夷弾による大空襲に掛かる言及が思いのほか多かった。キューバ危機でも強硬派で侵攻を唱え、前ソ連大使トンプソンと対立していたとのカーティス・ルメイが主導したという日本全国が焦土と化した空爆のことだ。「4.効率を最大限に高めよ」ということでの爆弾攻撃ではない焼夷弾攻撃で、日本全国67都市の50~90%が焼き尽くされたと語っていた。そのうえでの原爆投下までする必要があったのかとの問い掛けが「5.戦争にも目的と手段の“釣り合い”が必要だ」で述べられていたが、泥沼化したベトナム戦争で当時さんざん非難されていたマクナマラが、桁外れに好戦的だったと評していた軍隊時代の元上官であるルメイやトルーマンを引き合いに出すことによって、自分は彼らよりはましだったと弁明しているようでもあった。

 いささか呆れたのは、アメリカは世界最強だが、その力を一方的に他国に押しつけるべきではない。それがわかっていればベトナムに介入しなかった。との反省の弁の持ち出し方だった。そっくり同じことをチャップリンが述べていたことをBS世界のドキュメンタリーモダン・タイムス チャップリンの声なき抵抗で視聴したばかりだが、『モダン・タイムス』は日米戦よりも前の映画だ。

 ベトナム戦争における枯葉剤の使用について問われ、人道を質されたことに対して違法ではなかったと返していた彼が、前もってルメイによる焼夷弾攻撃の話をしていたことの真意が透けて見えたような気がした。“桁外れに好戦的な”ルメイによる空襲とトルーマンによる原爆投下から何も学んではいなかったわけで、どの口がそれがわかっていればベトナムに介入しなかったと言うのかと思わずにいられなかった。そして「9.人は善をなさんとして悪をなす」との章では、こともあろうにルメイと1965年にペンタゴン前で焼身自殺したノーマン・モリソンとを並べて、自分も含めた章題について語っていたことに唖然とした。ケネディについて語る時だけ涙声になっていたことが印象深い。


 奇しくも絶好のタイミングで地上波放映された将軍ルメイ “悪魔”と呼ばれた男は、アメリカによるベネズエラ及びイラン侵攻を受けて製作されたのか、既に製作中だったものに導入部と最後で触れたのか判らないが、まことに時宜に適った番組だった。“力による平和”なるものを口実に他国への侵略を恣にする戦後アメリカの原点を炙り出したような作品で、ちょうど二十三年前のドキュメンタリー映画『フォッグ・オブ・ウォー』によって、上司と部下の関係が入れ替わったりもしたロバート・マクナマラを観たばかりだったから、なおのこと興味深く視聴することができた。

 驚いたのは、日米戦が始まって間もない1942年段階ではアメリカ軍の航空部隊がドイツの四分の一、日本の半分にしかならない2000機程度しか保有していなかったという話だった。すぐに追いつき追い越したアメリカの底力にも驚いたが、空軍力で圧倒したとばかり思っていたので、初期の格差には吃驚した。

 また、東京大空襲を始めとする焼夷弾攻撃は、作戦を指揮したカーティス・ルメイによるものだと思っていたが、実際のところは、実を挙げない指揮官を三ヶ月で更迭してルメイに替えた司令官ヘンリー・アーノルドによるものだったようだ。併せて、ヘイウッド・ハンセル准将が採った精密爆撃から無差別爆撃に替えたのもルメイよりアーノルドだったようで、その非人道的で絶大な効果による成功体験が鉄尻ルメイを“悪魔と呼ばれる男”に育て上げたようだ。本作にも『フォッグ・オブ・ウォー』からの引用が見られた。

 そのようなルメイに佐藤首相が勲一等旭日大綬章の叙勲を行なっている日本の姿も漏れなく映し出していた。戦争を必要悪として徹底的に肯定したアメリカ軍人に叙勲を行なった被爆国の首相がノーベル平和賞を授与されているのだから、“平和”という概念が、僕の思うところとはどうやらまるで異なっているようだ。

 1943年のウォルト・ディズニー・プロダクション製作によるプロパガンダアニメ『空軍力の勝利』で称揚され、戦後は陸軍海軍と並ぶ空軍として独立した軍のトップに最終的には就いたうえで、58歳で引退したというルメイは、その余りの強硬派ぶりが、さすがに政府でも持て余されたのだろう。キューバ危機に際しての彼の強硬論が本作でも映し出されていた。引退後、四半世紀の余生を得て83歳まで長寿を全うしたようだが、85歳で『フォッグ・オブ・ウォー』のインタビューに応じていたマクナマラのように語ることはなかったようだ。唯我独尊の人生で、弁明を要しなかったのかもしれない。

 するとこれは興味深いドキュメンタリーですね。ルメイの勲章はつまり日本の自衛隊設立と指導によるものだったらしいです。昭和天皇は自らの手で授与する事は拒否したと伝えられていますね。とのコメントが寄せられた。戦後、昭和天皇は深く反省してか、平和主義を貫いていたように思う。靖国問題に関しても合祀には憤慨していたと報じられていた記憶がある。

 また、2回観ました。それにしても、終始、ルメイの人相よくなかったです。ライト兄弟、リンドバーグの黎明期もなぞっていましたね。今回のイラン攻撃に至るプロセスがよくわかる米空軍歴史ドキュメントに仕上がっていました。朝鮮戦争時の朝鮮人100万の犠牲には驚きました。正に、悪魔でしたね。とのコメントもあった。ルメイも元々はヒコーキ野郎だったのだろう。だが、日本焦土化作戦を指揮したことで箍が外れたというか底が抜けたような気がする。原爆投下を決断したトルーマンが、その後は止めたのに、ルメイのほうは、朝鮮戦争でもキューバ危機でも核攻撃を主張していたようだ。加えて叙勲だなんて全くとんでもない話だ。コメント氏によれば、トルーマンは、原爆についてよく知らないまま(意図的に知らされなかった)、OKサインを出したようで、その後、口で何と言おうが、後悔していたのだと思います。投下後の写真を見せられて、絶句したという話が伝わっています。 ルメイは、ゲーム感覚で勝ちを急ぐ戦争屋ですよね。とのことだった。こともあろうに、そのルメイに最高位の勲一等旭日大綬章を授けるのだから、言うなれば、国辱ものとでも言う他ない。
by ヤマ

'26. 3.10. YouTube ソニー・ピクチャーズ公式チャンネル動画
'26. 3.12. NHKプラス



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