『フェンス』['23]
監督 松本佳奈

 返還前の占領下の沖縄を描いた宝島を観たばかりのところに、現代の沖縄を描いた秀作ドラマが配信されているとの映友からの告知を得て、連続五話を一気に観たものだ。

 オスプレイが街中上空を飛ぶコザを第一話で映し出していた本作は、#01 ユクサー【嘘つき】、#02 アメジョ【米女】、#03 ヒヌカン【火神】、#04 マブイ【魂】、#05 ヌチ【命】とのウチナーグチをサブタイトルに掲げ、沖縄において際立って過酷な形で続いている“女性の生き辛さと負わされた傷み”を描き出した力作だったように思う。そして、沖縄問題は沖縄の問題ではなく日本の問題だとしているスタンスそのままに、性被害は米軍基地のある沖縄の女性に特有の問題ではなく、グローバルな女性問題なのだという作り手の立ち位置が、自治会長や祖父による性加害、米軍兵士を装った犯行など米軍兵士だけがレイプ犯ではない人物配置を念入りに施すことによって明確にされていた気がする。

 このドラマが放映された当時の出演映画愛にイナズマの日誌にも松岡茉優は、やはり大したものだと記しているが、本作でも、抱えた傷みをどうにかして超克しタフに生きようとしている、癖のある元キャバ嬢ライターの小松綺絵を演じて、彼女ならではの造形を果たしていたように思う。独りで生きてきたとの自負とともに友達がいないってことだけどねと自嘲する小川絹こと小松綺絵が、大嶺桜(宮本エリアナ)という掛け替えのない友達を得ていく物語でもあったのだが、主軸はそちらでも、キャバ嬢時代の客として知り合った沖縄県警の渉外警ら隊所属のイーサン(青木崇高)との関係性の描出に妙味があって大いに感心した。

 '96年のSACO合意から四半世紀を過ぎて放置されたままの普天間飛行場の返還や、地位協定の見直し協議の行われない現状を痛撃するとともに、今や本土各地でも問題化し始めたPFOSや大麻密輸をも取り上げ、日米安保条約は日本国憲法よりも上にあるとの台詞を盛り込み、最後に諸外国人も含めた犠牲者を慰霊する平和の礎で締め括っていた見事な作品だった気がする。世界の恒久平和を願い、国籍や軍人、民間人の区別なく、…氏名を刻んだ記念碑の精神を振り返ることがとりわけ必要な状況になっていると再認識させられたように思う。
by ヤマ

'25.10.12. NETFLIX配信動画




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