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『海がきこえる』(The Ocean Waves)['93] | |||||
監督 望月智充 | |||||
四年前にDVD観賞していたのだが、当地でスクリーン上映されるなら観逃す手はないだろうと足を運んだ。数日前の海の日の朝イチの回に行ったら余りの行列に恐れをなして見送ったのだが、今日も相当なものだった。覚悟を決めて並ぶことにし、三十六番の整理券をもらった。だが、やはりスクリーン観賞は好い。五割増しだった。 中学三年時の杜崎拓【声:飛田展男】と松野豊【声:関俊彦】の抗議行動の姿に遠い日の新聞部や生徒会活動の日々を思い出し、僕の思い出にはない里伽子【声:坂本洋子】に振り回され手を焼く拓を微笑ましく観た。そして、男同士だけでなく、女同士でも男女間でも、腹蔵なく言いたいことを言い合う若き日々の姿を懐かしんだ。 僕らも在学時分からコークハイなど飲んだりしていたし、卒業後の同窓会ともなれば、十代のうちでも大っぴらに宴会をして煙草をふかしていたものだ。66期生という呼び方を僕らはせず、僕は51回生だが、創立時もどうやら僕の母校をなぞっているようだ。66回生となれば、1991年卒だから、ちょうど符合する。 校舎は確かに県立の追手前高校のものだが、県立に抜かれて中学の修学旅行が中止になっていた中高一貫教育校ならば、当時の高知の県立高校ではない。但し、僕の母校では、受験への配慮もあって高三のときのクラス替えはなかったし、修学旅行は僕の在学時分から六年間で一回きりだった。 今回のリバイバル全国上映に触れて、地元紙の学芸部記者が「宮崎駿監督の怒り」と題したコラムのなかで、「宮崎監督は作品を初めて目にした時、怒っていたそうだ。作品は「『かくあるべし』を描くべきなのに、これは『かくある』しか描いていない」。そう不満を口にしたという。」と紹介したうえで、「確かに宮崎監督が言うように、本作からは恋愛とは、友情とは「かくあるべし」といったメッセージ性は感じられない。」と記していて驚いた。作品自体を否定しているのではなく「むしろ高校生たちの「かくある」日常を描くことに徹している。そうやって追求したリアリティが、90年代の空気感を残す名作としての再評価につながっているのだろう。」と続くのだが、拓が「僕だってごっつぅ可哀想やんか」と呟くような特別な黄金週間のみならず、同じクラスには一度もならずに過ごした松野豊との関わりや清水明子【声:天野由梨】の忠告も含め、こんなに眩しく互いが腹蔵なくぶつかり合いつつ各自の持つ器を大きくしていく青春期を誰も彼もが共にしているとはとても思えない。 だからこそ、文庫本の解説を書いた宮台真司には“何かチクチクと痛くなるようなリグレット”というフレーズが浮かんだのだと思う。里伽子から平手打ちを喰らうような直球を投げ、打たれた平手打ちを返す「お風呂で寝る人」、青春期の若人は「かくあるべし」をこれだけ率直に謳い上げている作品はないように僕には思えて仕方がない。転校してきた里伽子を拓が認め且つ東京で失望も感じた“いつも堂々としている姿”で生きることの難しさと眩しさを描いた作品だからこそ、中学三年時に挙手する拓と豊のエピソードから綴り始めていた気がする。 すると「ジブリはどんな現実離れしたファンタジーも日常描写をディテール豊かに描くことで作品にリアリティを与えることを得意としているので、「海がきこえる」のような等身大のドラマだとその持ち味はさらに遺憾無く発揮されているなと感じます。」とのコメントが寄せられた。同感だ。そういう意味でも本作は、とてもジブリ的な作品だった気がする。十八年後の作品『コクリコ坂から』['11]などもそうだったように思う。 | |||||
by ヤマ '25. 7.26. キネマM | |||||
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