『海がきこえる』(The Ocean Waves)['93]
監督 望月智充

 原作小説を読んだのがいつだったか、もう覚えていないが、書棚に残っている '99年6月発行の文庫本が出て、そう間もない頃で、邦画コキーユ 貝殻['99]を観て程ない頃だったような気がする。

 氷室冴子が '90年に連載した小説を読んで、海が出てこない本作の最終章「海がきこえる」に出てくる目を瞑ってしばらくすると、耳が慣れて、海の音がきこえた。なつかしい海の音と匂いだ。P289)は、まさしく『コキーユ 貝殻』で引用されていたコクトーの「私の耳は貝の殻 海の響きを懐かしむ」から取って自分の店の名にしていた直子(風吹ジュン)の聴いていたものと同じ響きだったのではなかろうか。そのような気がする小説だった覚えがある。

 そして、邦画桐島、部活やめるってよ』の映画日誌にも引用した、文庫本の解説文の“何かチクチクと痛くなるようなリグレット”(宮台真司)というフレーズが気に入り、おまけに舞台となった高校が中・高の六年間一貫教育がウリの私立の名門校で、県下一の進学校、と世間ではいわれていた。市内の生徒たちからは、お坊お嬢の学校とみられていた。そういう雰囲気も、たしかにあったような気がする。小学生のころから塾にゆくのはあたりまえ、家庭教師についてたやつらも数しれず。両親とも大卒で教育熱心で、家庭教師をつけるくらいは余裕のある家庭の子――というのが平均的な生徒像だった…六年間も顔をつきあわせていると、おなじクラスにならなくても、顔は見知っている連中ばかり。身内意識もつよい。…そういうアットホームというか狭い世間の学校だから、途中で編入してくる生徒は、それだけで目立った。P30~P31)といった記述などから、僕の母校のように思っていたから、親近感を覚えていた。そうしたら、'93年にアニメーション作品として放映されていて、モデルは追手前高校だと聞き、以来、いつかは観てみたいと思っていたら、二十年も経ったということだ。

 確かにこれは、僕の母校ではなく、原作小説では「県立第一」となっていた県立高校の校舎だった。かなり丹念にロケハンしている劇中の '93年当時の高知の街並みが、今となれば、殊更に懐かしい。DVD特典の「あれから10年ぼくらの青春」と題して本作を制作したスタジオジブリ若手制作集団のメインスタッフ5人が、高知を訪れて撮った2003年5月の高知の街並みの映像がまた興味深かった。
by ヤマ

'21. 2.20. DVD観賞



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