『エル・ドラド』(El Dorado)['66]
『オレゴン魂』(Rooster Cogburn)['75]
監督 ハワード・ホークス
監督 スチュワート・ミラー

 記録にないからテレビ視聴だと思われるが、西部の牧童たちを描いた絵画でタイトルバックが始まる『エル・ドラド』は遠い日に観た覚えがある。だが、オープニングクレジットにジェームズ・カーンの名が出てきたものの、その記憶がなかったので、どこに出てくるのかと思いきや、聞き覚えのある名のミシシッピことアランであったことに吃驚した。まだゴッドファーザー['72]も『ローラーボール』['75]も観ていない時分で、おそらくカーンに対する認識がなかったのだろう。

 いかにも前世紀半ば頃の作品らしく、実にオーソドックスにダンディズムを謳歌した映画だったような気がする。勇名馳せるガンマンのコール・ソーントン(ジョン・ウェイン)に対して早撃ちとして一目を置くアウトローのマクラウド(クリストファー・ジョージ)の造形に端的に現われていたが、ガンマンのコールと保安官J・P・ハラー(ロバート・ミッチャム)の邦画任侠映画での義兄弟のごとき関係の描き方やら、“二度も命を救ってくれた”コールを慕って付いてきたミシシッピとコールの関係、ハラーと年嵩の保安官助手ブル(アーサー・ハニカット)との関係の描き方にも、マンダムというか“Man Domain【男の領域】”が満ちていた。

 コールがガンベルトを巻かない丸腰のアランに加勢をしたのは、博奕で負けた腹いせに四対一の卑怯な闘いで殺された恩人との友情による敵討ちに、二年も掛けて既に三人始末してきた心意気に惚れたからなのだろう。見どころのある若者だが、ナイフ遣いだけでは心許ないとガン指導までしていた。

 この基軸が実にしっかりしているから、彩りとして添えられる“西部劇に似合いの気丈な女性”として配される酒場女のモーディ(シャーリーン・ホルト)とライフルガールのジョーイ(ミシェル・ケイリ―)の人物造形とエピソード、対照的ないでたちが画面に活き活きと現れているように感じた。とにかく画面構成がよく出来ていて、どのカットを切り取っても、タイトルバックの絵画ではないが、実に“絵になる”画面だった気がする。最初に絵を持ってきているのは、まさにそれを意識してのことではないかとさえ思った。

 また、後の映画だと絶対にそうはならないと思われる、保安官側のメンバー四人が負傷までで誰一人死なないという嘗てのオーソドックスが気持ち好かった。むかしは確かにそうだったよなぁと懐かしい気分になった。表情豊かでなかなか芸達者なロバート・ミッチャムと役者のキャラで押すジョン・ウェインとの対照的なコンビが絶妙で、二人して松葉杖で並び歩く場面にニンマリさせられた。見せ場としてのガンファイト場面がやや緩慢で、もう一工夫ほしいところだったが、上出来のエンタメ作品だと改めて思った。


 続けて同日に観た『オレゴン魂』は、気になっていた本作の放映がされたので、ちょうど『エル・ドラド』を観たばかりだしと観てみたものだ。手元にある公開時のチラシの裏面の【解説】に今やアメリカ映画の生きる伝説とまで言われている…二人が今まで一度も共演したことがないというのは、…チャンスがなかったということらしい。だが遂に、ウェインが69才ヘップバーンが67才を迎えた今日、この夢の組合せが実現した。とあるとおり、ルースター【雄鶏】ことルーベン・コグバーン(ジョン・ウェイン)と牧師の娘ユーラ・グッドナイト(キャサリン・ヘプバーン)の二人が繰り広げる、丁々発止の掛け合いが見どころの映画だった。

 同じルースター・コグバーン保安官が主演でも、今度は少女ではなく老女を連れた、もう一つの勇気ある追跡['69]だったわけだが、少女に替えて老女にした分、同行する若きテキサス・レンジャーが保安官志望の先住民少年ウルフ(リチャード・ロマンチート)に替わっていた。

 ルースターとの異名を持つ騒々しく大声で暴れるルーベンに一歩も引けを取らない、口数もライフルの腕前も確かなユーラとの道中であんたと一緒だと楽しいとルーベンが零した告白に心揺さぶられていたユーラは、名うての無法者ホーク(リチャード・ジョーダン)から足元に銃弾を繰り返し撃ち込まれても、いっさい怯まず微動だにせずに説教を続ける気丈さで、歯に衣着せぬ物言いをするからこれまで縁遠く、ルーベンから言われたような言葉を掛けられたことがなかったのだろう。実に嬉しそうにしていた風情がなかなかのものだったように思う。

 続編として紹介されることが多い本作のようだが、パーカー判事(ジョン・マッキンタイア)から君は終わった、もう年だと長年の保安官代理の職を解かれたルースター・コグバーンが、一気にマーシャル【連邦保安官】に任じられる顛末を描いていたのだから、最初から連邦保安官として登場する『勇気ある追跡』の前日譚ともいうべきものだった。名言引用の得意なユーラを感心させる言葉を云ったルーベンに、何処からの引用か問う場面が最後のほうに出て来て1880年、ルースター・コグバーンと言っていたから、1880年代が舞台だった前作の前日譚であることを明示しているのだなと思った。

by ヤマ

'25.10.25. BSプレミアムシネマ録画



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