『お柳情炎 縛り肌』['75]
『実録エロ事師たち 巡業花電車』['74]
『団鬼六 白衣縄地獄』['80]
『昇天寺 後家しゃぶり』['02]
監督 藤井克彦
監督 林功
監督 西村昭五郎
監督 坂本太

 昨年の9月と思しき『みうらじゅんのグレイト余生映画ショー in 日活ロマンポルノ#101』とともに収録されていたディスクの「団地妻 昼下がりの情事【白川和子】、お柳情炎 縛り肌【谷ナオミ】、実録エロ事師たち 巡業花電車【星まり子】、団鬼六 白衣縄地獄【麻吹淳子】、昇天寺 後家しゃぶり【星李沙】」というラインナップのなかから、最初の団地妻 昼下がりの情事は半年余り前に観たばかりなので飛ばして、次となる『お柳情炎 縛り肌』から観ることにした。ちょうどハモンハモン』と『髪結いの亭主を観て、フェチ映画の話になったりしていたところだったので、タイムリーに感じたということもある。

 原作に団鬼六の名がクレジットされていて確かにストーリーラインは、いかにもな鬼六ものではあったが、肝心の緊縛羞恥責め、色責めの部分は、最後の10分程度でしか描かれない異色の鬼六ものだという気がした。ラインナップの【麻吹淳子】のものと違ってタイトルに団鬼六を冠していないのも、それゆえのように感じた。

 フェチ映画としても、序盤に登場した足抜け女郎おはな(南ゆき)が囚われて裸で吊り下げられ折檻されていた、腋毛も露わに伸びた肢体をクローズアップしていた場面のほかには、縛り一つとっても、フェティッシュなテイストはあまりなく、印象深く描出されていたのは、地元の有力者の娘お美津(東てる美)と松夫(風間杜夫)のまさに“燃える火の如く熱っぽく交わる駆け落ち濡れ場”と、松夫の姉お柳(谷ナオミ)と銀次郎(三亜節朗)の“交合で二人の肌の刺青をくねらせる場面”という惚れ合った二人によるもので、鬼六趣味とは対極にある場面だったが、SM女優として売り出していた二人の女優の肌の綺麗さと艶っぽさは、眼福だったように思う。

 結局は、壺振り姿も立ち回りも凛々しいお柳への言葉嬲りとしてしか現れなかった、おはなが全裸で演じさせられていた花電車による習字の場面があったから、次のラインナップが『実録エロ事師たち 巡業花電車』になっているのかもしれない。お柳への責めとして特写されていたのは、秘処へのトロロ責めだったが、裏返しにした座卓然とした磔台に四肢を拡げて括りつけられた全身を俯瞰したカットを仰々しく映し出しただけで、鬼六作品だと念入りに描出される痒みに悶える姿は、まるでスルーされていた点からも、本作が鬼六趣味を排した鬼六作品としての任侠ポルノの造形を志向しているような気がした。決定的なのは、鬼六ものであれば、無間地獄のように延々と続いていくはずのお柳への色責めが、実質的には、とば口に立っただけでお終いとなっていたことだ。手負いの銀次郎と松夫の決死の殴り込みによって、石黒組を乗っ取った代貸の矢島(髙橋明)が、情婦のサディスティンたる桃子(小島マリ)ともども成敗される顛末になっていた。

 団鬼六原作による数多のロマンポルノのなかでも他の追随を許さない傑出した女優として人々の記憶に残る谷ナオミのロマンポルノ最後の作品団鬼六 縄と肌['79]が裸の場面はふんだんに出てくるけれども、官能色はほぼ皆無で、むしろドスを握って襲い掛かって来るやくざ者との立ち回りをお駒が繰り広げる場面が序盤と終盤の見せ場になっているというアクション映画だったことを思い出した。


 翌日観た『実録エロ事師たち 巡業花電車』は『お柳情炎 縛り肌』に花電車芸が出てきたところからのセレクションだと思っていたら、銀ちゃんこと殿村(殿山泰司)が登場し、伝説のポン引きだとか言われ、エロ事が白黒ショーで始まったものだから、いささか意表を突かれたが、看板倒れは成人映画にはつきものと割り切って観ていると、きちんと花電車芸を売り物にしているまゆみ(二條朱美)が登場し、『お柳情炎 縛り肌』に登場した習字のみならず、リンゴ切りやラッパ吹きを見せていた。けれども、エマニエル夫人['74]で、タイの少女が見せていた煙草芸のような実演ではなかったようだ。

 そういう意味では、花芸そのものにさしたる観応えはなかったのだが、殿村の眼力によって性風俗稼業にスカウトされて、東京地検などというお堅い役所勤めから、エロ事稼業に転身する愛子(星まり子)の変貌と、彼女を取り巻くエロ事師らの生態に、今村昌平監督の秀作「エロ事師たち」より 人類学入門['66]に通じるような味わいもあって気に入った。星まり子というロマンポルノ女優に覚えがなかったが、素朴で落ち着きのある可愛らしさが好もしかった。エロ事師たちは、自分たちの仕事は性の解放に貢献するものだと息巻いていたが、愛子が自身の特異な能力に目覚め、自信を得ていくなかで、明るさと張り合いを見せるようになる姿に、自由な伸びやかさが感じられたように思う。

 殿村が自分の筆おろしをしてくれた、嘗ては吉原一の売れっ子で、朝顔太夫の源氏名を誇りにしつつも、認知症の訪れてきていた老女(武智豊子)を世話しながら、その末期を見送り、集まったエロ事師たちと庭先に遺骨を埋めて活けた朝顔の苗に一番大事な精を捧げようと呼び掛け、歌麿ボーイの異名を持つ若者がツレションじゃなくてツレマスかと呟くなか一斉に放射した夜の翌朝、何の前触れもなく大輪の花を咲かせた朝顔一輪に、前夜一緒に弔いをした女がやっぱり肥しが効いたのねぇと洩らす声を背に、花を愛でつつ淋しくなるなぁと呟き、巡業に出ることにした場面がなかなかよかった。


 次に観た、レズ場面で始まり終わる『団鬼六 白衣縄地獄』は、オープニングが白衣でエンディングが縄というタイトルどおりの作品ながら、医療業界の話ではなくてエロ事師ものだったからラインナップされたのかと、納得の作品だった。だが、当然ながらにして『実録エロ事師たち 巡業花電車』とは、まるで趣の異なる映画だった。また、作品タイトルに団鬼六の名を冠していながらも、『お柳情炎 縛り肌』同様に、鬼六趣味とは別物のSMワールドだったような気がする。

 そもそも鬼六ものであれば、看護婦を医師との結婚退職で辞めた敏子(麻吹淳子)を呼び出して捕え、縛って強姦するなどということは起こらないとしたものだ。強引に犯したりなどせず、弱みに付け込んで自らの意思で開かせる厭らしさにこそ、鬼六の真骨頂があるわけで、光枝(橘雪子)たちの主宰する愛奴俱楽部に出演させる女たちを確保し、言うところの淫婦に仕立てあげさえすればいいというものではない。稀有なる女性の美と気品への嫉妬と僻みを源泉にした心身への嬲りと辱めが核心なのだから、敏子への調教に際しても羞恥を煽るねちっこい言葉嬲りなしに鬼六世界はないのだが、赤褌一枚に剥いての吊りバイブから、局部を強調する拘束衣での鞭打ち、浣腸、水責め漏尿、股間剃毛といった責め技を矢継ぎ早に繰り出して見せるだけだった。

 それでは、ただの凌辱折檻であって、とても愉悦と官能を引き出す調教にはなっておらず、その部分を、倶楽部の先輩淫婦たる社長夫人の和子(岡本麗)が喫茶店で敏子に諭す台詞によって片付けて画面では経過描出がないままに、敏子の被加虐への目覚めに至らせていたから、クライマックスとなるSMショーでの首輪をつけた敏子と和子のワンワンレズショーや、集まった富裕男女の客が仰向けに吊り下げられた女体に蠟涙を垂らして満悦している演目において陶然となる敏子に凄みが宿ってこないし、ましてやラストで自宅に洋子(朝霧友香)を招き入れ、レズプレイに縄を持ち込んだ全裸での絡みを夫(中丸信)に見せつけて、妖しい光を放つ眼差しで睨む姿など、まるで釈然とせず、何だか締めのために取って付けたような気がした。

 縄師に名が記されていた浦戸宏が脚本も担っている作品は初めて観たように思うが、鬼六的な羞恥や愉悦による精神的嬲りなど、まさに鬼六自身の言う「似非SM」だと考えていて、確信的に排除しているのかもしれないという気もした。敏子への調教に先駆けて和子が施されていた局部にたっぷりメンソレータムを塗り付けられての股間扱きが、奇しくも『お柳情炎 縛り肌』との対照を見せて、戦前任侠世界でのトロロ責めと現代医療ものを思わせるタイトルでのメンソレかと妙に可笑しかったが、その扱き方にしても実に乱暴で、ねちっこさの欠片もなく、木馬責めや最後のSMショーでの青竹による打擲にしても、主眼は肉体的加虐に置かれていたように思われる点が、確信的非鬼六世界だと感じた。

 それにしても、開始して10分経たないうちに敏子、レズパートナーの後輩洋子、敏子を陥れる光枝を演じた三人の女優が胸を開けてそれぞれの乳房を露わにする三つの場面が調えられていて、流石だと思った。


 最後に観た『昇天寺 後家しゃぶり』は、全65分中46分のところで再生不能となった。ちょうど昇天寺住職の遥舜(町田政則)が、後家でもない沙織(林由美香)に淫の功徳を施している場面だった。

 標題の後家たる雅子(星李沙)が下着一枚で自慰を始める場面から幕開けた本作は、ロマンポルノではなく、エクセス配給のピンク映画だったが、ローターを自挿して墓参していた美沙(美里流季)を含めて、三人の女優が魅力に乏しい一方で、妙に小芝居を間断なく付けている遥舜と酒屋の古山(吉田祐健)が可笑しく、女優よりも男優が目を惹くという、実に珍しい成人映画だった気がする。

 どう観てもハワイのホテルの部屋には見えないベッドで新婚ハワイ旅行の夜としていた『団鬼六 白衣縄地獄』以上に、低予算が透けて見えるピンク映画そのものだったが、ピンクも時に拾い物があるし、ロマンポルノにだけ偏重するのは、成人映画観賞として不健全だという感覚が僕のなかにあるので、ちょうどありがたい組み合わせだった。途中で視聴不能になったのは残念だったけれども、女優にあまり魅力がなかったので、そう惜しくもなかった。
by ヤマ

'23.10.14~18. スカパー衛星劇場録画



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