『島守の塔』
監督 五十嵐匠

 タイトルになっている「島守の塔」というのは、最後に実景で現れた、沖縄戦時の島田叡県知事(萩原聖人)と荒井退造県警察部長(村上淳)を並べて顕彰している「終焉の地」と刻まれた黒光りする石碑なのか、その手前に立つ慰霊塔なのか、ということで言えば、二つの記念碑の間に建っていた、七十余年の歳月を経た1951年(昭和26年)建立の石碑に刻まれている文字であった。三つとも映し出されたなかで、二人の連名の石碑が最も新しいもののように見えたが、いつの建立なのだろう。

 半年前に観た岡本喜八監督・新藤兼人脚本による力作激動の昭和史 沖縄決戦['71]にも島田知事は登場していたが、荒井警察部長の記憶がない。同作は、島田知事に焦点を当てた作品ではないから、彼の人物像の一端は窺えても具体的に何をした人物かは判らなかった覚えがあっても不満はない。それからすれば、本作は「島守の塔」として名を刻まれている人物についての映画なのだから、具体的な顕彰業績が描かれていてもよさそうなのに、あまり釈然としなかった。人柄や人物像については、エピソード的にかなり描かれていたように思うが、どうしてなのだろう。そのあたりが大いに物足りなかった。

 沖縄戦の惨劇については、他にも息を呑むような迫力で描いた作品があるのだから、いま『島守の塔』そのものをタイトルにして知事と警察部長を描くのであれば、そこのところに注力してもらいたかった気がする。

 それにしても、今井正監督の'53年版ひめゆりの塔で上原文を演じていた香川京子が、実景の「島守の塔」に手を合わせる場面が出てくるとは、何とも感慨深いものがあった。
by ヤマ

'23. 2. 8. あたご劇場



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