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『60歳のラブレター』['09] 『いくつになっても男と女』['07] | |||||
監督 深川栄洋 監督 いまおかしんじ | |||||
出産を目前に同棲相手の八木沼(内田朝陽)に対して「結婚って地獄だよ、あの二人見て育ったから、そのくらい判ってる」などと序盤で話していた娘のマキ(星野真里)が、最後には「結婚しようか」と言い出して終える、いかにも松竹映画らしい『60歳のラブレター』を観ながら、マキの離婚したばかりの両親橘孝平(中村雅俊)・ちひろ(原田美枝子)が、三十年前に行くことの叶わなかった富良野の丘で抱き合っているシーンにて満面に咲いていたラベンダーの群生が気になった。 孝平が60歳を迎えて大手建設会社の専務取締役を退任し、会社を辞めたのを機に離婚した小山ちひろが、売れっ子ミステリー作家の麻生圭一郎(石黒賢)の誘いに応じて富良野を訪れた時点では、ラベンダーの花は既に終わって影も形もなくなっていた。それが、まるで孝平が花咲じじいと化したが如く、かつて画家を志した彼がほぼ四十年ぶりに描いた満開のラベンダー畑の絵を畑に掛けたら花が咲いていた。これは、単なるフォトジェニック効果を画面に演出しただけのものなのか、ある種、ファンタジーとしての孝平の夢想を示すのか、妙に思わせぶりのように感じた。少々狡い演出だなと思う。もし、孝平の夢想とするならば、走り去った車から彼女は降りておらず、ラベンダーの咲いていない畑を一人上って来る場面からが夢想だという気がする。 三十年前に結婚の記念写真を撮った写真館からのタイムカプセルに、いかにインパクトがあったとしても、あまりに現実感を欠いた運びに、仮に注文がついても逃れられる道を構えているようにも感じられ、小癪な気がしたわけだ。コメントを寄せてくれた映友も「「30年分をこれで許すの?」と一緒に見ていた妻が言ってたように、これは甘いよね、とも思ったことでした。」と記していた。 旧知の映友女性は「私も観てま~す。中村雅俊がアホに見えた以外は、覚えておりません。」とのことだったが、公開当時に残している映画日記にて彼女が繰り返し指摘している“古臭さ”について僕は、元ネタが住友信託銀行の応募企画ということもあって、あの大手建設会社(協和建設だったかな?)の重役会議に居並んでいたような類のおっさん連中にウケる線ということで作られたからではないかと邪推している。要は、“おっさんファンタジー”というわけだ。作り手としては、建設会社のところをあのまま銀行にしたかったのではないかという気がしている。 僕自身は、離婚も死別も未婚も知らずに来ているが、孝平・ちひろの元鞘顛末よりも、死別で子持ちの地味な佐伯医師(井上順)に恋した、翻訳家で独身者の長谷部麗子(戸田恵子)が、彼の娘理花(金澤美穂)に啖呵を切っていた間合いと理花の受け止め、成否五分五分の脳外科手術に臨む妻(綾戸智恵)が密かに準備していた褒美のマーティンのギターを見つけて病室の枕もとでひたすら思い出の歌♪ミッシェル♪を歌い続ける魚屋の松山正彦(イッセー尾形)のほうが、気持ちよく眺められるファンタジーだと感じた。 そして、どうせ“おっさんファンタジー”とするなら、前日に観た国映映画の『いくつになっても男と女』のほうが含蓄があるような気がした。これは、その四日ほど前に観た『団地妻 隣のあえぎ』の脚本を担っていた今岡信治による監督作を見つけたので、観てみた作品だ。 すると、思い掛けなく今の僕と同学年となる六十五歳の二人が、中学の同窓会で久しぶりに再会して、半世紀前にすれ違ってしまった恋のやり直しをするというピンク映画で、大いに恐れ入った。 後に鮒やん(多賀勝一)が「それまでおめこやいうて一遍も言うたことがないのに」と述懐していた妻から、病院のベッドで「おめこ触って」と頼まれて驚きつつ、末期癌が進行し死期の迫っていた彼女に応えた後で掛けられた「スケベ、頑張りなはれ」の言葉どおり、同窓生の和ちゃん(並木橋靖子)と過ごしていたラブホテルでの遣り取りが妙に味わい深く、思いのほか印象に残った。多賀勝一と並木橋靖子の朴訥とした台詞回しが、不器用な二人によく見合っていたように思う。また、鮒やんの同窓生仲良し三人組の気の置けない年季を重ねた関係がいい感じだった。 並木橋靖子は、映画の出演作は他にはないようだが、些かマニアックな熟女ジャンルのAV女優らしい。何年か前に確かダイヤモンド・オンラインだったと思うけれども、最高齢八十代AV女優という記事を見掛けて、吃驚仰天したことがあるのを思い出した。 | |||||
by ヤマ '23. 2. 6. BS松竹東急よる8銀座シネマ録画 '23. 2. 4. GYAO!配信動画 | |||||
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