『激動の昭和史 沖縄決戦』['71]
監督 岡本喜八

 これが喜八の沖縄決戦かと、死屍累々のオープニングから焼失した首里城を映し出して始まる、150分に及ぶ凄惨な画面に圧倒された。対馬丸の件も含めて、沖縄戦絡みで僕の見聞きしている事々のほぼ総てが何らかの形で映し出された網羅性に恐れ入り、新藤兼人渾身の脚本だと感心した。

 小林清志によるナレーション効果もあってかドキュメンタルに綴られる三ヶ月に及ぶ沖縄戦の惨状を観ながら、最後に戦死者10万人、戦没沖縄県民15万人と示された本作のなかだけでも、自決を含めていったい何人が死んでいたのだろうと思わずにいられなかった。大田少将(池部良)が戦時に遺していた沖縄県民斯ク戦ヘリ 県民ニ対シ後世特別ノ御高配ヲ賜ランコトヲとの言葉が何とも痛烈に響く近年の政府対応に想いが及ぶ。

 時折わずかに挙げる戦功も描かれることが却って一方的な負け戦の惨状を際立たせるとともに、ひたすら苦難を重ねている描写が、ある意味、淡々と続くことに些かうんざり感が湧いてくる運びになっていたような気がするが、そのうんざり感の誘発こそは作り手の確信的な部分のような気がした。首里城を撤退する南部転戦を巡って牛島中将(小林桂樹)に抗した島田知事(神山繁)と牛島の遣り取りに明示されていた軍隊は軍隊のために戦うのであって、決して自国民を守ったりしないというのは、本作に登場していた鉄血勤皇隊とは違って知られざる少年兵部隊であった護郷隊を追うドキュメンタリー映画沖縄スパイ戦史』の日誌にも引いたように軍隊の本質だと思うが、本作ではさらに、軍律に従って戦う軍隊を呆気なく見棄てていく大本営の有様を強調していたように思う。

 折しもNHKBSプレミアム放送フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿」で「ナチス 人間焼却炉」の再放送を観て、富と栄達のためだけに非道への加担を積極的に行って61歳で獄死したクルト・プリューファーの生涯を総括した「恥ずべき人生」という言葉を研究者が発していたことが印象深かっただけに、富と栄達が保身に替わろうとも同じようなことを思わずにいられなかった。

 近年あちらこちらで馬脚を現している我が国のプリューファーもどきの面々の顔が思い浮かぶ。当然ながら、科学者に限らない話であって、原発であれ、経済政策であれ、産廃であれ、スポーツであれ、宗教もどきであれ、人間焼却炉は、あちこちに林立しているような気がする。

 凄惨を極めた沖縄戦のなか置き去りにされた傷痍兵が、たとえ見捨てられても、そうは問屋が卸さないと一人で這って行軍を続ける姿が、母親を爆撃で亡くし戦場を彷徨う少女の姿と併せて劇中ずっと垣間見えていたが、その描出の示していたものが印象深い。改めて“戦闘を続けることこそが絶対悪”だという思いを呼び起こしてくれるような作品だった気がする。時節柄、ウクライナでの戦闘継続のことを自ずと思った。沖縄戦の三ヶ月を最早疾うに過ぎている。
by ヤマ

'22. 8.23. 日本映画専門チャンネル録画



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