『去年の夏 突然に』(Suddenly Last Summer)['59]
『真夜中のサバナ』(Midnight in the Garden of Good and Evil)['97]
監督 ジョセフ・L・マンキーウィッツ
監督 クリント・イーストウッド

 六十年の時を隔てたアメリカ南部でのゲイ問題に関連する殺人事件を扱った映画を続けて観た。

 先に観た『去年の夏 突然に』は、先ごろ観たイヴの総て['50]が思いのほか面白かったことから観たものだ。今から九十年近くも前になる、ロボトミー手術などが行われていた1937年当時の人々における禁忌【タブー】に対する感覚など、もはや想像も及ばない時代に生きているからか、六十余年前に製作された本作におけるビネビル夫人(キャサリン・ヘプバーン)や姪のキャサリン(エリザベス・テイラー)が抱え込んでいた精神的ダメージの大きさが今一つピンと来ないうえに、それらが苦闘のうえでの「吐き出し」によって劇的に解放されてしまったり、自身の精神的破綻に至ったりする結末に、釈然としないものが残った。

 戯曲の映画化作品とはいえ、ひたすら繰り出される長広舌とまったく顔を見せることのなかったセバスチャンの名が繰り返し響き耳につく感じに些か閉口したが、キャサリン・ヘプバーンの醸し出す怪しい不気味さと、エリザベス・テイラーの漂わせていた妖しい不可解さには、感心させられた。リズは水着姿も見せていたが、二十代後半にして既に体形が崩れ始めている感じが妙に印象づけられるものになっていたような気がする。

 二日後に観た『真夜中のサバナ』は、善悪の彼岸ならぬ善悪の夜庭ともいうべき原題を持つ作品で、『去年の夏 突然に』での '30年代のルイジアナ州でのタブー度からすれば、'90年代のジョージア州サバナでのゲイに対する状況には、偏見くらいにまで来ているような感じがあって、ゲイよりも遥かに強度の高いマイノリティ特性を露わにしている人々の描出がなかなか興味深かった。

 公開当時のチラシの表にアメリカでいちばん美しい町でほんとうにあった殺人事件との触れ込みが作品タイトルの上に記されていて、裏面の記載によれば、作中で陪審員長も務めていたインテリながら、頭の周りを糸で結んだアブを何匹も飛ばせていたルーサー(ジェフリー・ルイス)にしても、どこか怪しげな黒人ドラッグクイーンのレディ・シャブリことフランク・デボー(レディ・シャブリ)にしても、首輪だけの見えない犬を散歩させる男にしても、あげたら切りがないほど登場する不思議な人々すべてが、実在の人物であるという作品だ。

 殺人事件の顛末を描いたサスペンスとしては、事件にまつわる肝心の部分を描出しないまま150分超を費やした、何ともまどろこしい作品になる点が、本作に三十余年先駆ける『去年の夏 突然に』と同じであることが興味深かったのだが、北部から訪れた雑誌記者ジョン・ケルソー(ジョン・キューザック)にもっと見たいかね?変わったものをと言っていた富豪紳士ジム・ウィリアムズ(ケヴィン・スペイシー)の台詞さながらに、“ミステリアス南部”を描くことに勤しんだ映画なのだろう。『去年の夏 突然に』のビネビル夫人やキャサリンの醸し出していた奇妙な不可解さも、もしかすると“ミステリアス南部”だったのかもしれないと思うとともに、三十一年前に六本木シネヴィヴァンで観たディープサウスものの『悲しき酒場のバラード』や、二十二年前にあたご劇場で観たギフト、本作と同じくジョン・キューザックの出ていた九年前に飯田橋ギンレイホールで観たペーパーボーイ 真夏の引力のことなどを思い出した。『悲しき酒場のバラード』と本作は同時期の作品となる訳だが、サバナならぬサバト然としたブードゥ教の女呪術師ミネルヴァ(イルマ・P・ホール)がまだ終わってないと指摘していた“呪い”によって結末が訪れたかのように映る作品を観ながら、ジムが最後に言った台詞真実は芸術と同じだ。見る者による。…自分の眼を信じるんだを想起した。

 それにしても、ジョンがジムから謝礼に貰ったジョージ・スタッブスの絵画『ニューマーケットの荒野で朽ちる家』の厚塗りされた絵の下に描かれていたものは何だったのだろう。また、エンドロールによれば、オープニング&エンドロールで流れる♪スカイラーク♪の作曲者ジョン・ハーンダン・マーサーの作品ばかりで彩られた映画でもあったようだ。オープニングで彼の墓標が映し出されたのは、そういうことだったのかと得心するとともに、劇中で♪降っても晴れても♪を歌うマンディを演じていたアリソン・イーストウッドが目を惹いた映画でもあった。やはり殺人事件よりは、南部サバナを描いた作品だったような気がする。思えば、三日前に観た華麗なる週末も1905年の南部ミシシッピ州ジェファースンを舞台に、どこか変というか出鱈目な人々が数多登場する映画だった。
by ヤマ

'23. 5. 3. DVD観賞
'23. 5. 5. DVD観賞



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

<<< インデックスへ戻る >>>