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『オレゴン大森林/わが緑の大地』(Sometimes A Great Notion)['71] 『リバー・ランズ・スルー・イット』(A River Runs Through It)['92] | |||||
監督 ポール・ニューマン 監督 ロバート・レッドフォード | |||||
今回の合評会の御題は、僕らの若い時分にゴールデンコンビ(『明日に向って撃て』['69]、『スティング』「'73」)として名を馳せた二人が監督を担った映画のカップリングだった。両作とも川がシンボリックな意味合いを持っていて、美空ひばりの歌った♪川の流れのように♪を想起するまでもなく、人生の流れを感じさせてくれる作品だった気がする。 先に観た『オレゴン大森林/わが緑の大地』は、同調圧力をものともしないタフな生き方を描いて、なかなか強烈な作品だったように思う。巨木の年輪に「Never Give A Inch」と彫り込んであったが、AnではなくAなのかと意表を突かれつつ、1インチも譲るな!を信条にすることの何が大事で、何処に意味があるのかと思わされながらも、ハンク(ポール・ニューマン)が、曰くつきの因縁で結ばれた十五歳違いと思しき異母弟リーランド(マイケル・サラザン)と二人で、巨大な筏をタグボートで見事に牽引していくラストに痺れた。 伐採事故で落とされた亡父ヘンリー(ヘンリー・フォンダ)の中指を立てた腕をタグボートに結わえ付けていたのだが、群れることと異端者への迫害を隠れて行う連中に見せつけているように感じた。ヘンリーのタフな生き方は見事ではあるが、Sometimesがなかなか意味深長な原題だとも思った。災いの元もまたヘンリーにあると言える気がしてならなかったからだ。ハンクたちの従兄弟ジョビー(リチャード・ジャッケル)こそは、伐採事故による過酷な溺死を前に、これ以上のタフさは望めないと思われる天晴れな最期を遂げていった真のタフガイだったように思う。 夫に対して、偏屈なまでの父親と対抗することを求めて破れた、ハンクの妻ヴィヴ(リー・レミック)が、ジョビーの妻ジャン(リンダ・ローソン)と一緒にスタンパー家を去って行くのは、いかにも田舎暮らしがそぐわない風情のリー・レミックが演じていればこそ、大いに納得感があって、リーランドが「女性は会話に参加しないの?」と訝しむスタンパー家の家風に、むしろよくぞ耐えていたものだと思われた。朝の目覚めのルーティーンが妻ヴィヴへの軽い尻打ちだったりするハンクを観ながら、食事時には「いただきます、愛してるよ」と交わすルーティーンを見せていた『42-50 火光』の夫婦との違いに時の流れを感じた。 また、唯我独尊の極みのようなヘンリーから「息子が娘になった」と久しぶりの帰還に際して言われていた長髪リーランドが思いのほかタフで、ハンクとのスタンスの取り方にもなかなかのものがあったように思う。嫂のヴィヴに告げていた自殺未遂からの事故の話との落差に驚いた。 そして、十四歳で継母の誘惑により駆け落ちしたらしきハンクの人生のいかにも厳しそうな歩みが偲ばれただけに、彼が異母弟に「俺を潰したいのか」と洩らした言葉が響いてきた。大学に進んだと思しきリーランドに、父ヘンリーに替わって仕送りを続けていたハンクには、自分には何ともしようのなかったことだと思いつつも、継母の死に対して感じている負い目があったような気がしてならない。そのことを痛感しているリーランドなればこその最後の筏引きだったような気がしている。 リーランドくらいの年頃の若い時分に観たら、さぞかし刺さってくる作品のように感じた。嫂ヴィヴがいつまでもスタンパー家に留まれるはずがないと見越していたリーランドがその折にはと嫂に声を掛けていたことが、単純に彼女に惹かれての想いだけでもなかったように感じられた。そして、義弟のその言葉に、死産の負い目も手伝って夫に付き従ってきた自分の心底を見透かされた気がして弾みがついたようにも映る彼女の選択だった気がする。昨年観た西部劇『フォート・ブロックの決斗』でも少々場違いな感じで目を惹いたリー・レミックの演じるヴィヴが大いに気になった。 六日後に観た『リバー・ランズ・スルー・イット』は、実に綺麗な画面の映画だったが、渓流釣りの趣味を持たない僕には響いてくるところに乏しい作品だった。ノーマン(クレイグ・シェイファー)・ポール(ブラッド・ピット)兄弟の父であるマクリーン牧師(トム・スケリット)が妙に気に食わない人物だったからかもしれない。オープニングの澄んだ清流の境地に、ノーマンは辿り着けていたのだろうか。妙に収まり悪く感じた。 強権的な父性を剥き出しにした人物像を、半世紀ほどの時を隔ててヘンリーとマクリーン牧師という形で描き出していた両作において、不遜な手に負えなさでは相通じるものを覗かせながら、僕の印象が大きく違ったのは、なぜだろう。不思議な気がした。それと同時に、両作をカップリング作品として観たことによって、大物の鱒を掛けたポールが、渓流に押し流されながらもしぶとく追った際に、流されながら高く突き上げていた腕に、『オレゴン大森林/わが緑の大地』のラストでハンクがタグボートの真ん中に結わえ付けて掲げていたヘンリーの腕を想起した。 | |||||
by ヤマ '22.11.9,15. DVD観賞 | |||||
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