『アムステルダム』(Amsterdam)
監督・脚本 デヴィッド・O・ラッセル

 呆気なく午前1回だけの上映になってしまい、字幕版も打ち切られ、吹替版で観たが、観逃さなくてよかった。風変わりな語り口が非常に刺激的で、また志高い作品だった。タイトルのアムステルダムというのは、換言すれば、“リベラリズムとヒューマニズム”なのだろう。

 第一次世界大戦後のアムステルダムで、軍医部隊長だったバート・ベレンゼン(クリスチャン・ベール)と気骨ある黒人兵士ハロルド・ウッドマン(ジョン・デヴィッド・ワシントン)との共同生活を率いて、リベラリズムとヒューマニズムを体現していた元従軍看護婦ヴァレリー・ヴォーズを演じていたマーゴット・ロビーが、飛び切り魅力的だった。アメリカに帰国して後、彼女が毒を盛られていたエピソードというのは、物語的必然性を欠く形で設えていたことから、多分に象徴的なもので、1933年当時のアメリカにおける“リベラリズムとヒューマニズムの危機”を示していたような気がする。

 そして、ずっしりと重しの効いていたギル・ディレンベック将軍を演じたロバート・デ・ニーロの貫録が見事だった。あの演説は、吹替ではない字幕版で聴きたいものだと思った。エンドクレジットでの再生において並置されていたスメドリー・バトラー少将による演説こそが、本作の冒頭でクレジットされていた…ありえないけど、ほぼ実話の核心部分なのだろう。

 軍産共同体による利権の目論見であれ、信心に付け込んだ収奪の目論見であれ、彼らにとっての御都合主義としての国家主義に与する動きを制する意味からも、非常にタイムリーで意義深い作品だと思った。

 何より画面が、観ていて愉しい。コミカルでテンポがいいから、二時間超の長尺でも全くダレない。折しも『ファイヤーフォックス』['82]を観て、そのまどろっこしさに閉口したばかりだったから、尚のこと強く感じた。同作も素材自体は面白く、大作感もあったので、本作に宿っていたようなスリリングさが備わっていれば、随分と異なったはずだと思った。
by ヤマ

'22.11.13. TOHOシネマズ1



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