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『戦争と平和』(War And Peace)['56] | |||||
監督 キング・ヴィダー
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六十六年前の僕がまだ生まれていない時分の映画なのだが、録画再生を始めるや否や「何と綺麗な画面!」と魂消た。アンドレイ(メル・ファーラー)が「上品で健康、陽気で軽はずみ」と評したロストフ家を最も体現しているナターシャを演じたオードリー・ヘップバーンの胸元に透ける静脈さえも鮮明に映し出されていて驚いた。 三時間半に及ぶ画面の風格、エキストラに出てくる人の数の凄まじさ、調度品や衣装の贅沢さなど、どこを取ってみても文句なしの大作感を醸し出していて、さすがはディノ・デ・ラウレンティス製作映画だと恐れ入ったのだけれども、酒を飲み干す度に投げ棄て割られるグラスが象徴していた気のする“思い上がった貴族階級の恋愛事情”を軸に描いているうえに、映画の画面を見せることに力が注がれ、物語の運びが緩慢に感じられて、いささか勿体ない出来栄えだったように思う。 紆余曲折を経て収まるべき鞘に収まるナターシャとピエールを映し出して終える本作で最後にナターシャから「苦しみ傷ついているけれど、揺るぎない」と評されるピエールを演じたヘンリー・フォンダは、僕が観てきた彼の出演作のなかでも、なかなか出来の好いほうだと思ったが、肝心のオードリーが、かの『ローマの休日』と『ティファニーで朝食を』の中間に位置する、絶頂期とも言うべき時期の作品なのに、その魅力を十分に発揮できていなかったような気がした。 むしろアンドレイが、その肉体に目が眩んで結婚してしまったと悔いた、蠱惑的なエレンを演じていたアニタ・エクバーグや、アンドレイの妹マリヤを演じたアンナ・マリア・フェレーロのほうが目を惹いたように思う。先ごろ公開されたドキュメンタリー映画の『オードリー・ヘプバーン』を観てからまだ日が浅いこともあって、メル・ファーラーが気に食わなかったことが作用している気もしなくはない。 聞くところによると、本作の十年後に撮られたソ連版は、さらに桁外れの大作だったらしい。ソ連の国家事業で、上映時間は四部で六時間半、十二万人のエキストラが動員されたそうだ。あの時代のソ連製なら、ボリュームということでは然もあらんという気がする。ナポレオンをロシアが打ち負かした戦争というような位置づけがされているのだろう。もっとも本作では、ロシア軍が戦闘で破ったのではなく、呆気なくモスクワを陥落させながらも、長い遠征に疲弊して士気が落ち、陥落させたというよりは、市民共々もぬけの殻となった街でナポレオンの統制も利かなくなって乱暴狼藉、収奪放火に走ったフランス軍の堕落と腐敗による自壊のように描かれていた。だが、モスクワ明け渡しは、クトゥーゾフ将軍(オスカー・ホモルカ)の作戦でもあったわけで、いわゆる“冬将軍”以前にナポレオン軍が瓦解させられていたとは言えるのかもしれない。 | |||||
by ヤマ '22. 7.17. BSプレミアム録画 | |||||
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