『シェラマドレの決斗』(The Appaloosa)['66]
『11人のカウボーイ』(The Cowboys)['71]
監督 シドニー・J・フューリー
監督 マーク・ライデル

 実に異色の西部劇というほかない作品を続けて観た。先に観た『シェラマドレの決斗』は、1870年、国境の町に流れ着いた、南北戦争で敗残した南軍兵士と思しきマテオをマーロン・ブランドが演じていたが、妙に締まりがなく、何とも勿体ぶったまどろこしい作品だった。

 教会で何人もの人間を殺してしまい、幾人もの女たちと寝てしまった、これからは平穏に生きたいなどと懺悔をしていたばかりに、町を牛耳っているメキシカンの首領チューイ(ジョン・サクソン)との間に因縁ができてしまって、遂には殺し合いに至るわけだが、肝心の決斗場面が決闘とも言えないような呆気なさで、すっかり拍子抜けをした。しかも、ある種の忍従を己に課しているとも、戦略的探りを入れているとも思えないままに、呆気なく囚われの身になって嬲られるマットにしても、希少種の馬アパルーサの入手が本命なのか口実なのか判然としないのと同様に、囲い者にしたトリニ(アンジャネット・カマー)への執着も面子のほうでしかない気がするチューイにしても、役者のキャラクターは三人とも立っているのに、役柄のキャラクターが何ともぼやけてしまっていて、決斗場面に至るまでの時間繋ぎをしているような感じを受けて、さっぱりだった。

 クレジットによれば、原作小説があるようだが、おそらくは、今は亡きメキシカン農園主に育てられた白人として、マテオが久しぶりに訪ね戻った農場を経営している義兄弟のパコ(ラファエル・キャンポス)一家に対してのみならず、メキシカンへの思いがいろいろあり、エピソードもいろいろ書かれている小説だったのだろうと思わずにいられなかった。

 翌日観た『11人のカウボーイ』はタイトルに11人とあるから、先ずは五人という形で現れた牧童たちがジョン・ウェイン演じる齢六十歳の牧場主ウィル・アンダーセンの元に集っていくのだろうと思いきや、大人たちは皆、砂金採取に心奪われ、誰ひとり数ヶ月にも及ぶ600kmのキャトル・ドライブ(牛追い)に雇えなくて、仕方なく11人の少年を雇って旅に出る道中を描くという“ビジョン・クエスト”ものだった。

 映画の序盤に誰も牛追いに応じてくれないことをウェスが嘆いて昔は義理を通したとぼやいたことに、四十年間連れ添っている愛妻アニー(サラ・カニンガム)が時代が違うわと慰めていたが、まさに時代が違うというほかないタフでハードな西部開拓時代が描かれていて驚いた。'70年代なればこそで、今だともう撮れない映画のような気がする。

 早逝した二人の息子のどちらの墓標か判らないが、1837-1858の文字が刻まれていて、ウィルが上の子は生きていれば、もう四十だと言っていたから、1870年代半ばの物語だ。50ドルの報酬でハードな仕事に就く子供たちを親が普通に送り出していた。最年長者でも十五歳だったが、ウィルもこの仕事を自分が始めたのは、十三歳の時だと言っていたような気がする。ダンが岩場の上から落としてしまった眼鏡を拾いに行ったユダヤ人少年チャーリーが、気の立った牛の群れに囲まれて興奮した馬から落ちた事故であっけなく死んでしまった運びに意表を突かれたが、そのときに察して然るべきだったかもしれない、キャトル・ドライブの目的地に到着する手前でのウィルの死に驚いた。

 しかもその死に方たるや、少年たちを雇った後で砂金採取は思ったほどの稼ぎにならないから雇ってくれと言ってきたのを断った流れ者の三人組が、十余人の徒党を組んで牛泥棒を働きに襲撃してきた際に、呆気なく殺されるというものだった。能弁なワッツ(ブルース・ダーン)が嘘をついて雇われようとしたのを見抜いて断ったのだったが、実は刑務所を出てきたところなのだと言い訳し、社会復帰のチャンスはくれないのかと言ったことに対して過去は問わないが、嘘は嫌いだと言ったウィルが、いかにもジョン・ウェインらしかった。

 それにしても、そのウィルの死に対して、少年たちが弔い合戦を行う展開になるとは思い掛けなかった。次々と悪党たちを仕留めていくことで、少年たちがウィルによる訓練と薫陶によって一人前の“男”に成長していることの証を立てているような映画にしていて、本当に驚いた。そして、牛の群れを奪還し、きちんと目的地に送り届け、墓も誂えて道中に埋めてきたウィルの元に帰り、墓標を立てる物語だった。うまく息子を育てられず若くして死なせてしまったことを悔いているふうでもあった彼のために墓標に刻んだ言葉が良き夫にして父親だったのは、少年たちがウィルの厳しさに反発しつつも父と慕っていたことを証するものだったわけだが、その墓標もさることながら、そのとき一人の少年が呟いたウィルの口癖お日様に負けるなが沁みてきた。

 そして、彼らの“ビジョン・クエスト”をウィルと共に導いてきた黒人料理人ナイトリンガー(ロスコー・リー・ブラウン)の人物造形がなかなか渋くて気に入った。ウィルの提示した100ドルの報酬に対し125ドルと交渉して雇われた、南北戦争への従軍経験もある頼りになる男だった。雇い主であっても断りなくウィルがつまみ食いをしようとすると咎めるけれども、自分の愛飲するテネシー・ウイスキーを盗み出した少年たちが初めての酒盛りをこっそりしているつもりが酔って声が高くなってばれてしまった場面では、一緒に忍び寄ったウィルがどやしつけようとしたのを酒盛りの様子を確認したうえで制止していた。通過儀礼として容認すべき状態だと判じたのだろう。

 その一方で、道中で遭遇した娼婦の一行に少年たちが上ずっていたときには、元締めのケイト(コリーン・デューハースト)に対し、実にウィットに富んだ紳士的な説得を行っていた。にこやかに微笑んでわかった、ここを立ち去ることにするわと応えたケイトの貫録がまた魅力的だった。いい映画だと思う。
by ヤマ

'22. 7.15,16. BSプレミアム録画



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