『竜とそばかすの姫』
監督・脚本 細田守

 地元高知のロケ映画も少なからず観ているはずなのだが、これほど本編よりも背後の景色が気になった作品は初めて観たように思う。それだけ高知の風景が美しく精緻に描かれ、随所に対して正確な観覚えを感じることができたということだろう。

 とりわけ中学時分の毎日の自転車通学路だった鏡川べりの何の変哲もない佇まいの美しさが気に入った。その一方で、それは、物語のほうがいささか凡庸だったことの証左だという気がしなくもなかった。本作がいたく気に入ったという地元の映友(神戸出身)は物語が破綻していて怒り💢すら感じたという娘さんが脚本を細田監督が書いたのが失敗だったのでは?と感想を語ったのが意外だったそうだが、僕は怒りまではいかないけれど、大いに頷ける気がした。

 映友女性はボートの男の子と学校一の美少女との淡い恋も可愛いしね。鈴の幼友達でボーイフレンドの男の子の存在もいけてます。ラストの東京行きや兄弟との偶然の出会いや抑圧父親の腰抜かしなどは、安直とか破綻というほどのことでもなく、アニメなんだから、いいじゃないか、と思うくらい映像の面白さが勝ってたとのことだったが、僕には、カミシン【声:染谷将太】と瑠果【声:玉城ティナ】のJR伊野駅での場面の演出にしても、瑠果への鈴【声:中村佳穂】の誤解という顛末にしても、初々しさというより、いつの時代の映画かと思うような安っぽさのほうが強かった。鈴の幼馴染の忍【声:成田凌】は確かに好かったけれども、虐待親父【声:石黒賢】の腰抜かしに対しては、鈴の気迫を感じるよりも親父への呆気のほうが勝ったように思う。あれなら、鈴の果敢に触発されて後押ししてもらった恵【声:佐藤健】による決起とするべきものだったような気がする。鈴が恵をハグした後に弟の知を加えた三人で抱き合う展開はよかったけれど、ここで恵が<U>の黒竜から<リアル>の白竜に転じなければ、作品タイトルの『竜とそばかす姫』にならないではないかと思った。

 リアルの名前が鈴だからこそ、アバター名がベルとしたものなのだろうが、どうしたってベルのほうから鈴の名がつけられたとしか思えない「美女と野獣」が、まるで『ライオン・キング』を逆にしたように感じられるくらいに、ディズニー作品とキャラクターも美術も重なるような造りだった気がする。

 また、ヴァーチャル世界に対する世界観が、既に十二年も前になるサマーウォーズ['09]とほとんど変わらぬままであるように感じられたことが衝撃的だった。それにしても見事な画面だったが、物語としては、映友女性が引き合いに出してきたおおかみこどもの雨と雪['12]のほうが遥かにいいような気がする。




推薦テクスト:「お楽しみは映画 から」より
http://takatonbinosu.cocolog-nifty.com/blog/2021/09/post-e5a8b9.html
by ヤマ

'21. 9. 7. TOHOシネマズ4



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