『アーヤと魔女』
監督 宮崎吾朗

 昨年4月29日の公開が延期され、このほど公開されたばかりの映画が、フル3DCGでの映像化という部分を割り引けば、昨年12月30日のTV放映版と変わりのないモノだという話を仄聞して、孫たちがよく観ている録画を観賞した。

 操り少女アーヤ【声:平澤宏々路】の物語としては、触りの部分を欠いた鳥羽口で終わっている印象を残すのが何とも物足りなかった。次作に興味を繋ぐうえでのアーヤの母親【声:シェリナ・ムナフ】の再登場なのだろうが、その出し方をもう少し工夫して、アーヤが魔女ベラ・ヤーガ【声:寺島しのぶ】と魔王マンドレーク【声:豊川悦司】を手名付ける過程の描き方を本編で丁寧にしていれば、かなり印象が違ってくるのではないかという気がした。それぞれ、なかなかキャラが立っているように感じられただけに残念だった。

 操り上手と言ってもアーヤの操りは、小手先ではなくて丸ごと全身でぶつかっていって引き寄せるもののようだったから、操りとも言えないのかもしれないが、なにせ名前がアヤツルなのだから仕方がない。ダイアナ・ウィン・ジョーンズによる原作では、どうなっているのだろうか。画面に映った情報からは、なんとなく「EARWIG」が本名のような気がしたが、どういう意味を備えているのだろうと思っていたら、斯界に明るい映友が、アーヤの本名は「EARWIG」でハサミムシのことだと教えてくれた。

 ハサミムシは、西洋では人間の耳から頭に入り込み、人間を操る虫と信じられていたそうで、だからアーヤの髪型はハサミムシみたいになっていたのだそうだ。そういう曰くがあって、アヤ・ツルという名にしたのならば、なかなかの妙訳だと感心した。僕は、画面に映った手紙(?)に書かれていた文字から、原作での本名が「EARWIG」のように受け止めたのだが、背景を伺って大いに納得した。加えて、アーヤの親友・カスタードがハインラインの愛読者だというのは映画のオリジナルで、たぶんハインラインの代表作に“人間を操る宇宙生物”が登場する『人形つかい』があるからなのだそうだ。

 劇場版で売りのフル3DCGというのは、本編のオープニング・クレジットが始まるまでのアーヤの母親が格好良く登場していた場面の映像で全編が描かれるということなのだろう。だが、取り立てて立体感に執心していない僕としては、テレビ放映版でも充分にその色合いの美しさと画面の鮮やかさを受け取ったような気がしている。
by ヤマ

'21. 9. 5. 地上波NHK総合



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