『ミネソタ大強盗団』(The Great Northfield Minnesota Raid)['72]
『さすらいのカウボーイ』(The Hired Hand)['71]
監督 フィリップ・カウフマン
監督 ピーター・フォンダ

 やはり '70年代の西部劇は、僕の好んだ西部劇とはテイストが違うと改めて思った。先に観た『ミネソタ大強盗団』は、先ごろ観たばかりの地獄への道['39]地獄への逆襲['40]に描かれたジェイムズ=ヤンガー・ギャング団を取り上げた作品だ。しかし、ロバート・デュヴァルの演じていたジェシー・ジェイムズが主人公ではなく、終身刑の後、二十世紀になって保釈され、天寿を全うしたコール・ヤンガー(クリフ・ロバートソン)のほうを描いた作品だった。防弾チョッキを身にまとい、頭脳派として、ジェシーとともにギャング団をリードしていた感じで、『地獄への…』二作において兄フランク(ヘンリー・フォンダ)が担っていたポジションを占めているような印象だった。

 活劇色は薄く、むしろ時代風俗を描いているようなところがあって、北部に対して南部が抱えていた遺恨や野球、焼石を漬けて湯にする浴場、“ケイトの愛の館”と呼ばれていた娼館などによって、1876年当時の様子を描出することに力が入っているような気がした。大陸横断鉄道を走らせる蒸気機関が列車に留まらず、陸地の自動車としても登場したり、ピアノが音を出す仕組みにも取り入れられている様子が映し出されていた。次々と新しい事物が現れる時代であったことを反映してか、コールの口癖が「これは驚嘆だ!」というものになっていたように思う。


 続いて観た前年作の『さすらいのカウボーイ』では、およそ西部劇らしからぬオーバーラップを多用したオープニングに、川を流れる少女の死体まで現れて、すっかり驚いてしまった。やはり '70年代作品だけのことはある。これはもうジャンル的に言えば、西部劇ではないと思った。

 結婚してすぐの二十歳そこらで1児の父となり、十歳年上の妻が自分よりも赤ん坊のほうを気にかけだすと、飲み友達とほっつき歩いてばかりになった挙句、家出をしちゃった“坊や”の話なのだが、“俺たちの旅”を謳歌していた三人組の一人が些か浅はかな死に様を遂げると、放浪生活に怖気が出たのか潮時と思ったのか、やおら家に帰ると言い出して帰郷の途に就く。七年間を共に遊び連れこった相棒を伴って六年ぶりに戻ってきたら、さすがに邪険にされながらも「雇われの働き手」として受容されるばかりか、相棒アーチ(ウォーレン・オーツ)にも気遣ってもらって「そろそろ夫として生活する慣らしを始めてもいい頃合いだ」と夜這いを勧められる始末で、まさに帰巣の付添の務めを果たしてもらっていた。

 そんなハリー・コリングス(ピーター・フォンダ)にまったくお気楽ライダーだと呆れつつも、妻ハンナ(ヴェルナ・ブルーム)を挟んだそれぞれの人間模様になかなか味があって、思いのほか面白く観た。なかでもハンナの人物造形がよくて、夫の不在中に使用人と寝ていたとの陰口を知ることになり、アーチの警告も聞かずに妻に質さずにいられなかったハリーに対する応え方が見事だった。一年半夫婦生活を送ったという夫のハリーよりも深いところで、彼女のそういう芯の部分を直ちに感得していたと思しきアーチの人物造形もなかなかのものだったように思う。

 だから、お似合いはむしろ、アーチとハンナのほうなのだが、いかんせん二人とも“坊や”のハリーが好きなのだ。ハリーの妻が思っていた以上の女性であったことを見届けて、アーチは海を目指し去るのだが、流石にこれでめでたしめでたしにはなるまいと思ったら、案の定だった。“坊や”は坊やらしい気概によって“男”を立てて散っていくわけだが、そうして観終えてみると、冒頭のあの少女の死体は、映画的には何だったのだろうとの引っ掛かりが残った。そして、こういう類の尾を引く後味を残す映画というのは、ジャンル的に言えば西部劇ではないと思い、もはや西部劇ではないと最初に感じたことを改めて想起した。そういう意味では、もしかするとアーチは、ハリーに替わってハンナの傍に落ち着くことになるのかもしれない。

 折しも高校時分の映画部長が「これは、僕の西部劇ベストテンに入る作品」だと教えてくれたが、還暦も過ぎた歳になって初めて観た僕と違い、彼は公開時に観たのだろう。であれば、「なんと斬新な西部劇か、これでこそ、ニューシネマだ」と痺れたに違いないと思ったので訊ねてみたら、案の定そうであった。なかなか面白く、また興味深く本作を観ながらも、僕にはそこまでのインパクトはなく、やはり「映画は、同時代において観るに越したことはない」と改めて思った。




推薦テクスト:「やっぱり映画がえいがねぇ!」より
https://www.facebook.com/groups/826339410798977/posts/3698633426902880
by ヤマ

'21. 5. 4. BSプレミアム録画
'21. 5. 6. BSプレミアム録画



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