『Lifers ライファーズ 終身刑を超えて』
(LIFERS: Reaching For Life Beyond The Walls)['04]
監督 坂上香

 近く行われるプリズン・サークルの上映会主催者から、坂上監督との対談で登壇する元少年院教官の加藤高知大学准教授による事前学習会を内々で行うからとお誘いを受けて観て来た。上映に先立ち、准教授から「我が国の司法・警察」として、刑事事件の手続と少年事件の手続についてのミニレクチャーを受けてから本作を観たのだが、十七年前に劇映画刑務所の中['02]を観て印象深かった刑罰の執行機関としての刑務所が果している実態的機能は、収容隔離と受刑者管理のみで…これでは、応報刑でも教育刑でもない。すなわち理論的には、刑罰執行機関が刑罰を執行していない実態に対して、アメリカの刑務所における驚くべき教育プログラムが当時、実施されていたことを知り、強い感銘を受けた。

 ちょうど『刑務所の中』と同時期に公開された『13階段』['03]では、欧米の刑罰思想が応報刑で、日本が目的刑に立っているということを語っていたような覚えがあるが、それは全くの誤りだったのだと本作を観て思った。依存症からの回復と社会復帰を支援するダルクの犯罪更生領域における回復支援活動団体だとも言えそうな“AMITY(アミティ)”の活動と、その教育プログラムに参加した受刑者たちの姿を捉えて、卓抜した作品だったように思う。

 とりわけ印象深かったのは、プログラム主任として支援責任者になっていた三十路半ばのまだ若い元受刑者男性が、刑務所内の騒ぎによって所内のオープンスペースの使用を禁じられて数か月になるという刑務所に赴いて、ささやかなクリスマス・ビュッフェのような催事を企画し、収監者たちから感謝の言葉を受けているときの応接と、満足と自負を滲ませた誇らしき笑顔だった。彼は、同様に元受刑者である妻との間に2歳の息子を持つ家庭人になっていたが、収監時代の写真との違いの大きさに心打たれた。人の労働対価として最も価値あるものは、感謝の得られることに他ならないと改めて思った。もちろん生活を維持していけるだけの賃金収入は必要だが、彼が現在の受刑者たちから得ている賃金ではない報酬の大きさがひしひしと感じられた。

 元受刑者における仕事として、このダルク的支援者に優るものはないように思う。本作においても言及されていたように、支援者が“受刑を経験している事実”の現受刑者に与える説得力には、何物にも替えがたいところがあるように思う。権力機構の公職という立場になる“教官”では果たし得ない支援効果をあげられるような気がした。加えて、受刑者が出所後に働き甲斐のある職を得る機会を確保することは非常に難しいのだから、そのなかにあって、この教育更生プログラムの担い手を育むことには、本当に大きな意義があるように感じた。むろん受刑経験さえあれば、優れた支援者になれるという単純なものではないのは当然なのだが、他方で収監中にアミティのプログラムに参加しているような人たちには、その資質を備えた者が意外と多いのではないかと思わせる場面を映画の序盤に置いていたことに感心した。

 アミティの創始者である女性が、プログラム参加者に対し、順番に前に立たせて、座っている参加者たちに「彼のいいところを挙げてちょうだい」と促し、口々の言葉を板書していくのだが、「まとめ役になれる」「話をよく聞くことができる」といった賛辞の挙がる人が、思いのほか多かったような気がした。彼女もまた元受刑者のようだったが、その彼女の言葉にも他の受刑者たちからの証言にもあった「ライファーズのおかげだ」という事実の重みが本作のタイトルになっている。

 数多いる受刑者たちのなかでも最も重い罰を受けているのがライファーズであり、出入りを繰り返す犯罪者からすれば、いつ戻ってきても居続けている稀少な囚人仲間になるのだから、自分よりも重い刑に服し、自分以上に希望を奪われているはずの受刑者の振る舞いというのは、当然ながら気になるだろうし、そのなかで弛まず更生プログラムに取り組んでいる姿は、確かに影響力が大きかろうと得心した。本作で特に焦点を当てられていた、服役期間が三十年にも及ぶ終身刑者であるレイエス自身もまた、他のライファーズからの影響でプログラムに取り組むようになったのだそうだ。

 そして、彼自身においても、今や自分がロールモデルになっていることから得られている“自身の存在価値への自負”というものが、釈放申請が繰り返し却下されても、淡々と受け入れつつ決して諦めずに申請を続けられる原動力になっているように感じた。それと同時に、申請が認められるか否かの重要な鍵が、当人の更生レベル以上に、被害者遺族の意見であることを窺わせる事例を対照として置いてあった構成が目を惹いた。プログラムのゴールイメージを釈放による社会復帰に置いても詮無き現実があることの提示とともに、あくまで更生プログラムであって、社会復帰プログラムとすべきものではないことを示していた気がする。

 ところで、アミティのプログラム実施中の場面に「Amistad」の文字が映っていたのが目を惹いたのだが、スピルバーグの映画のなかでも割と高く買っている同名作に繋がる何かがあるのだろうかと思ったりした。

by ヤマ

'20. 9.29. 喫茶メフィストフェレス2Fシアター



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